005/父からの言いつけ ページ5
.
――いいかい、A。お父さんたちが使う銃というものは簡単に命を殺めてしまうものなんだ。
吉田松陽と名乗る男について行きながら、Aの耳の奥で父の声がよみがえっていた。
――この世界は食物連鎖で成り立っている。
父は、よくAを山に連れ出しては銃の扱い方を教えてくれていた。
――お父さんたちは鳥や獣を撃ってその肉を食うが、決して狩りすぎてはいけないんだよ。
あたたかな、手だった。
乾燥していて大きくて、Aの小さな手のひらなんて簡単に包み込んでしまう。大好きな、父の手。
その手がAの頭を撫で、銃を操り、獣を捌いた。
――この銃は人を殺すためのものじゃない。お父さんたちに少しばかりの恵みを与えてくれるものなんだ。
Aには銃の才能があった。
目も良く、Aの撃つ銃弾に一切のブレがなかった。
父はそれをよく褒めたたえてくれた。
――それをよく心に刻むんだよ。
銃を背負い直し、歩く松陽の背中を見上げた。
さっき、Aはこの男に銃口を向けた。
殺そうとしたわけではなかった。銃弾も入っていなかったし、引き金を引いたところでなにも起きない。
だが……もし、弾が入っていたら?
彼は刀を重そうに持ち上げながら、おぼつかない足取りで、けれどせっせとついて来ている。
まだ警戒の色は抜けてはいないが、それでも彼は松陽について行くことを選んだ。
松陽にAたちをどうこうしようという考えは見えないが、もしあのとき、銃弾があればきっとAは松陽を撃ち抜いていただろう。
向こうがなにかをする前に。
殺られる前に殺らなければならない。
非力なAたちでは抗うことすらできない。
この世は弱肉強食なのだから。
けれど、松陽を撃ち殺してしまえばAは父の教えを破ったことになってしまう。
「……あの」
その瞬間を想像し、Aは一人震え上がった。
「どうしました?」
それをなんとかこらえ、Aは声を出した。
歩きながら、松陽は振り返る。
相変わらずその顔には優しい微笑があった。
96人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
弥生 - そして先生と夢主って…!と思います^_^; (2021年11月2日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 銀さんとのやりとりかわいい…! (2021年10月28日 12時) (レス) @page12 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 自分のペースで良いですよ!(*^^*)夢主の成長が楽しみです!(*^◯^*) (2021年10月17日 10時) (レス) id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
ふじ(プロフ) - 弥生さん» 弥生さん、コメントありがとうございます!最近更新ができていなくてすみません🙇♂️これからぼちぼち更新していこうと思っています!どうぞよろしくお願いします🥳 (2021年10月10日 12時) (レス) @page10 id: 9f078bb16b (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - 夢主と銀さんの絡み方が可愛いですっ╰(*´︶`*)╯夢主の父親はどんな人かとか気になりますっ!続き楽しみです!(*^^*) (2021年10月6日 9時) (レス) @page10 id: fbe43e3660 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ふじ | 作成日時:2021年9月20日 0時