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そんなことを考えたのも束の間、「不完全」な敦は「完全」な敦に手をかけた、と思った。が、手指は動かない。ボトッと云う音と紅い華が一瞬で散った。
「不完全」な敦は全てを消し、覚悟で近づいてきた暗殺者を見た…筈だった。だが、敦の視界は紅く染まっていた。だが、見えるはずのない目で見たかのように話しかけた。
「これが噂の三十五人殺しか……」
声をかけられた対象は 莫大な殺気を噴出した。紅い着物を着た少女、泉鏡花は感情を押し殺した声で「不完全」な敦に言った。
「私は生まれ変わった。もう、貴方のいる組織に帰りたくない」
目の前にいる敵を見据えた…筈だったがスッと体をのけぞらせた。鏡花の頬に紅い線が走った。
「痛っ」
「これがイタイの? コワーイ! ハハ! こわい! ごめんなさい……守る……ヤクソク……」
「不完全」な敦の状態が変わってゆく。元々白く透き通るような肌には白く透き通る白虎の毛が、指の爪は鋭く、細く伸び、目は、肉食獣特有の縦に細い瞳孔が揺れている。
又、口からは鋭い牙が生えている。だが、「不完全」な為か、その姿は心無しか揺れている様に見える。
と、思った時、「不完全」な芥川が「不完全」な敦に何かを投げつけた。ポンッと云う音と煙が晴れたあと、そこにはグッタリとした「不完全」な敦が倒れていた。
「ア…アクタガワ…アリガト…」
まだ爪は長く伸び、半人半虎特有の片言で喋っている。まだ爪は長く伸びていた。「不完全」な故、上手く操れないようだ。
「本物に打ち勝たずして自ら死ぬ心算か。阿呆。虎を解放したくば一人でやれ。僕にも被害が及ぶ」
「不完全」な芥川が「不完全」な敦を叱った。敦は少しデジャウを感じた。
「僕等のすることは本物に打ち勝ち、本物となることだ。机の下を切って如何する心算か」
ムッとして敦が言い返した。
「だって……机の下から虎の匂いがしたんだもん……」
敦はゾッとして自分の手や躰を見た。すると所々虎に変わっていた。隣の芥川は感情のない目で外套を蠢かせている。
敦は心配した。芥川が今此処で「不完全」な敦、芥川を斃したら、間違いなく返り討ちに遭う。
此処で戦うのは嫌だ。「不完全」な芥川は芥川と同じく外套を蠢かせながら呟いた。
「確か、此処には姿を隠す能力者がいた筈……」
と言いながら、芥川の潜っている机に黒布を突き刺した。ガイン!と云う音が鳴った。芥川が異能で防いだのだろう。
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珀秋そら(プロフ) - 感想正座待機でお待ちしておりますべ (2022年8月9日 18時) (レス) id: ae0531e6bf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空白時 | 作成日時:2021年7月9日 13時