第八章 迫り来る秋 ページ28
そのうち聞かれるんだろうとおもっていたことが、目の前で起こった。
できればもう少し小声で言ってほしかったな、仲介くん。
「おお、影山に女子！ 彼女？ 彼女なのか？」
……分かったこの子、あの時のオレンジくんだ。
早朝から体育館にいた子。
「ちょっと、日向……」
段差のコンクリートに腰掛ける私に、顔を近づけてくるのは“日向”と呼ばれる少年。
「お前さ、この人何年か知ってんの？」
「…………知らん」
「先輩だぞ」
影山くんの問いかけにフリーズし、みるみる血の気が退いていく。
「すみませんでした！！」
頭をめいいっぱい下げ、すみませんを連呼している。
この状況、たしか影山くんもあったような……。
「いいよ、気にしないで」
苦手な笑顔を造りながら、仲介くんによって去る日向くんを見送る。
「面白い子だね」
「あいつはそそっかしいんスよ」
いつの間にか影山くんの手にベビーカステラはなくて、空気のある声だった。
「ねぇ花火始まるって！」
「まじ？ 急ご急ご」
と、目の前を同い年くらいのカップルが走っていく。
すると、大きな花が夜空に打ち上げられた。
赤、青、黄、緑。
色鮮やかな花火が、黒の画用紙を染めていく。
そして散る欠片は、最後まで大空を舞う。
ひとつひとつが誰かの命みたいに、天高く昇っては咲いて、次第に跡形もなくなる。
華やかで綺麗な花火を、私達はずっとみていた。
お互い色んなことを考えながら。
＿＿そして、最後のひとつがあがった時。
頬に柔らかい感触。
視界に入る彼の顔。
途端に早くなる鼓動。
「……付き合ってください」
宮城の田舎町に、花火の音が轟いた。
影山くんがいないこの夜を、私は想像することができない。
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ハルジオン(プロフ) - 太宰亜里沙さん» コメントありがとうごさいます。楽しんでいただけてなによりです！ (2020年7月14日 17時) (
レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
太宰亜里沙(プロフ) - コメント失礼します！凄く面白くて一気読みしちゃいました！静かな夏の描写や素敵な影山をみれてとても読んでいて楽しかったです！ (2020年7月14日 12時) (レス) id: 9865e50aa1 (このIDを非表示/違反報告)
ハルジオン(プロフ) - はるはるさん» コメントありがとうございます。夏の描写はかなり気を使っていたので、そのように言っていただけて光栄です！ (2020年7月11日 13時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - 影山くんと主人公の不思議な関係、対して、鮮明な夏の描写。素敵な文章に幾度も胸をきゅっと締め付けられるようでした。最後の文章で、一気に世界が色づくような錯覚を覚え、思わず泣きたくなるような気持ちになりました…！ (2020年7月11日 2時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ハルジオン | 作成日時：2020年6月21日 13時
