８ 雲と霧との交渉劇＊ ページ14
…思えば、今日は変だった。
朝、食堂に降りたら、ワゴンを押してきたメイドがつまづいたせいで、熱々の紅茶を頭から被った。
昼、商談に行き、相手ファミリーの一人娘の部屋へ強制的に連れ込まれそうになった。
先程、朝利雨月の部屋にある花瓶を割り、正座で叱られていたランポウに泣きつかれた。
思い出すだけでため息が出る出来事の数々。
全てはきっと、この珍しすぎる客人の来訪を示していたのだ。
しかし、私を誰よりも嫌っている男が、なぜ私の部屋の扉をノックしたのだろうか。
「…精神が壊れたのですか、アラウディ」
「…やっぱり君を逮捕してから用件を済まそう」
呆然とする私と睨み付けるアラウディを、白衣を着た男が、呆れたように眺めていた。
話の内容を聞き進めていく程、目の前のコーヒーの香りが甘く感じられる。
信じられない話に、嗅覚までおかしくなったとわかり、頭を抱えた。
「…で、僕にその娘の記憶を引っ張り出してほしいと頼みに来た訳ですか」
「…デイモン、その間抜けな顔やめてくれる？
いつもの真顔以上に気持ち悪い」
次々と毒舌を繰り出すアラウディを、白衣の男がなだめている様子を見つめながら、ぼんやりと考えた。
(…この男は、そんなに甘かっただろうか)
確かに戦闘の最中は、誰よりも敵を倒し、誰よりも味方に優しいと言われる男。
しかし、日常の中では弱い人間を嫌い、孤高を貫く自由な浮き雲だ。
そんな人間がわざわざ忌み嫌う人間の元に出向き、怪しい少女の正体を暴こうとしている。
一体何をたくらんでいるのか。
疑問で渦巻く思考回路を落ち着かせるため、一口コーヒーを啜れば、鼻先に紙の束がつきつけられた。
「…これは？」
「依頼料」
簡潔な答えを聞きながら、紙をめくる。
書いてあった内容は、私が今日、商談をしにいったファミリーの事。
(…なるほど、私をあの一人娘の婚約者にしようとしていたのか。
私には既に先約がいるのですがねぇ)
「ねぇ、引き受けるの、引き受けないの？」
苛立ちを含んだ声に、ぱさっと音を立てて書類を置き、軽く口角をあげた。
「ええ、引き受けさせていただきます。
…このような貴重なデータをいただきましたし、それに」
…あなたに行動を起こさせる、その摩訶不思議な少女を見てみたいですし、ね。
「久しぶりに楽しめそうです……ヌフフッ」
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千桜(*_*)(プロフ) - 続きがとても気になります！続編楽しみです！ (2013年12月17日 10時) (
レス) id: e811a56b71 (このIDを非表示/違反報告)
音葉(プロフ) - このお話、とっても大好きです！更新楽しみにしてますね！！影ながら見守っています(=ﾟωﾟ)ﾉ (2013年7月29日 12時) (レス) id: 79ec10fac5 (このIDを非表示/違反報告)
霙@kutiki(プロフ) - ギャグ小説の方からジャンプしてきました！こっちもとても面白くて、続きがとても楽しみです！！更新頑張って下さい応援しています♪p(^-^)q (2013年7月21日 16時) (レス) id: 7b0e251a07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢霧 | 作成日時：2013年7月3日 17時
