悪役の善人 其ノ壱【※裏切り】

歳に似合わぬ手 ページ43

〜Aside〜

私は羽織を掴む和己さんの手に自分の手を重ねる。

竈門さんも同じように手を重ね、悲しそうに微笑んだ。

「俺たちはもう行きます。これを」

竈門さんは何かを差し出す。

「この中に、里子さんの持ち物があるといいのですが…」

…それは、鬼が蒐集品を飾っていた部分の布だった。

和己さんがそれを受け取ると竈門さんは頭を下げる。

私も軽く頭を下げた。

私と竈門さんは、和己さんに背を向けて歩き出す。

「すまない！！酷いことを言った！！

どうか許してくれ！

すまなかった……っ」

…和己さん…気付くのが早かったですね……

竈門さんの手は見るからに“努力をしてきた者”の手。

とてもじゃないが、普通の十五歳の手ではないだろう。

そんな手と、実際に大切なものを失った者特有の表情。

おそらく…竈門さんが、和己さんの心を動かした。

竈門さんは振り返って手を振った。

私はその様子を眺める。

薄情な奴だと思うかもしれないが、そもそもの話、和己さんが鬼の被害者でなければ、和己さんに手を重ねることも、頭を下げることもしなかった。

普段の私は、常に“悪役”でいなくてはならないから。

でも、あんな顔を見て…和己さんを罵倒することは、私にはできない。



「…………。」

(痛ましい手、硬く鍛え抜かれ分厚い…

少年の手ではなかった。

それに少女の方も……

一見普通の手に見えたが、実際は硬い、努力した人間の手だった。

…そして、二人の悲しい表情……)



歩きながら、竈門さんが拳を握りしめるのを視界の隅に捉えた。

鬼舞辻無惨について考えているのだろう。

…鬼舞辻無惨は鬼殺隊の敵だ。

私や竈門さんだけではなく、数え切れないほどに人を殺し、痛めつけ、苦しめた。

とても許される行為ではない。

「次ハ東京府浅草ァ！！

鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ！！

カァアア！！」

浅草か……

確か今は“彼女たち”がいる場所だったはずだ。

「えっ、もう次に行くのか」

「行ノヨォオ！！」

「ちょっと待って！」

「待タァナイ！！」

鬼を倒したかと思えば、すぐに指令が来ることはよくある。

次の任務先が遠いときは特に。

「炭治郎の鎹鴉はうるさいわね」

その時、ハクが飛んできて、お館様からの指令を伝えに来た。

「今後シバラクハ、竈門隊士トノ合同任務ニナルソウデス」

「えぇ、分かったわ」

まぁなんとなく察してはいましたがね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー全体的に本文修正しました

鬼を連れている事情→←失っても……

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す