Wolf Ⅱ (ページ9)

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「なんで、彼のこと...」

『あぁ、壱馬さんのこと...。有名ですよ？この世界じゃ』
「有名...？」

『なんせ、殺し屋界のスーパースターも同然ですから。』

「...」

『有名なんで、あの人の情報は簡単に出回りやすいんです。』

「情報...」

『だから、知ってました。Aさんのこと』

「えっ...？」

『割とAさんも有名ですよ？あの壱馬さんが匿ってるって、掟を破ったって』

思わずでてきた自分の名前に目を丸くして、
彼の方を振り返りそうになるがさっきのことを思い出してその行動を自制する。

そんな私に構わず、彼は言葉を続けた。

『壱馬さんは俺の憧れです。

＿＿＿＿＿＿＿大切な人のために“2回”も掟を破るなんて勇気、俺にはないし...。

だから、あの人が守った貴方は悪い人なんかじゃないって、信用できるって、そう思うんです』

“彼”の話に視界が少しずつぼやけていく。

その原因の涙は少しずつ溢れて、私の服へ落ちた。
どれだけ泣いても、涙は無くならない。
今まで、彼と出会って、どれほど涙を零したのだろう。

涙を落とす度、脳裏に浮かぶのは彼だった。
いっその事、涙なんてなくなっちゃえばいい、そう思った。
こんな惨めな、悲しい想いをするのなら...

でも涙を流していても、一つだけ引っかかることがあった。

掟とはあのことだろう...、

『“殺し屋が継続中の契約を破ること"』

『“これはこの世界じゃ、ご法度だ。特例で許される場合もあるけどね”』

北人さんの言葉が思い出される。

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