Wolf Ⅱ (ページ36)

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『Aさ、お風呂で倒れてて...。なにか着せなきゃいけないから、とりあえずそれを...。』

その言葉で胸が少し痛くなる

意識を無くす前に感じたあの感覚は“彼”じゃなかった。
彼じゃない。彼はいない。いないんだ...
その事実は私を暗闇へ落とすかのように全てを飲み込んだ。

『あっ...、あとこれ。ズボンのポケットの』

無意識に俯いた私に慎は声のトーンを変えずに言葉をふりかけた。
何かを指すようなその言葉に私は首を上にあげ、慎の方を見る。
先程見れなかった彼の顔が視界に入ると共に、彼の持つネックレスが見えた。

「っ...」

言葉を出せず、そのまま慎の手から“あの人のネックレス”を受け取った。
そして考えもなくそれを握った。強く。

少し涙が滲んだ。
強く握りすぎて、開いた手のひらにもうっすらと血が滲んだ。
心に“もう、来るな”、その言葉が滲んだ。

ただ滲むだけで、消えないんだ。

＿＿＿＿＿

『A、聞きたいことあるんだけど...』

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「ん...？」

重い雰囲気のまま慎を見ると、彼は少し真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

さっきはどちらかというと気まずそうに、申し訳なさそうな雰囲気を醸し出していたのに...。

変わった慎の雰囲気に戸惑いを少し感じる...

そして、“聞きたいことあるんだけど...”

そんなパッとしない質問が頭を回った。

『あのさ...』

私の視線が慎に向いて数秒後、彼は私から少し視線を逸らして何かを見た。

何かを...。

別に遠くにある訳ではなく、手を伸ばせば届く距離にあったそれ...

『これ...』

そのまま慎はそれを見たまま、強い視線を再びこちらにぶつけた。

『壱馬さんの...だよね...？』

そう、“それ”は誰のかわからない血が香る、
そしてその匂いと入り交じる彼の温もりの黒いパーカー。

正直頭のどこかにはあったが、目先のことに思考を取られて、すっかり忘れていたその存在。
慎の行動で存在と、それに宿る記憶が押し寄せた。

「＿＿＿＿＿＿＿っ...」

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