Wolf (ページ36)

今日:29 hit、昨日:30 hit、合計:523,811 hit

＊ページ36

＊

ただ気味の悪い声だった。
恐らく中年くらいの男の人だろう。
私はわけも分からなくて彼の顔をただ見るが、何故か彼はとても険しい顔をしていた。

『“仲間思いの君なら来るよね？東倉庫”』

意味のわからない言葉。
それが聞こえた時、電話が切れた。

“東倉庫”
確かにそう最後に言われた言葉。

私はここに来てから外に行ったことがなかった。
でもどこかの場所を指してることくらいすぐ分かった。

私は放心状態で携帯を見つめるが、彼は違かった。

・

機械音が部屋に響く中、勢いよく彼は席を立ち上がる。

椅子にかけていたパーカーを着ると、そのまま歩き出した。

彼がリビングのドアノブに手をかけた時、私は急いで立ち上がった。

・

その瞬間なった椅子の音。

静かな部屋にこだましたその音に、彼は足を止めた。

動かない背中に向かって私は少しずつ足を動かす。

それは少しずつ駆け足になり、そのまま彼の体に腕を回した。
強く、きつく、離れないでって願いながら...

何となく状況は理解してた...

彼がしようとしていることも分かった。

でもそれを許したら、今度こそ彼がいなくなってしまいそうで怖かった

ただ、怖かった。

・

「...」

何も発さないが、無言で首を横に降り彼を強く包んだ。
行かないでって言えなかった。
だって、

“行かないでといっても、あなたは行くんでしょ？”

彼は無言で私の手を解いて、体をこちらに向けた。

無意識に震え、いつの間にか出ていた涙。
彼は震えを宥めるかのようにもう一度正面から抱きしめた。

・

『ごめん...。』

髪の毛に埋められた彼の唇。
吐息とともに、震えている“彼”の声が聞こえた。

彼は私を離すと、スっと顔を私の方へ近づけ、そして唇を合わせる。

長く触れ合う温もり。

私はただ涙をこぼした。

・

そして温もりが消えた時、私の耳にドアが閉まる音が響いた。

もう二度と彼の声は聞けないのだろうか。
もう二度と触れ合えないのだろうか。

我に帰った時、私はその場にしゃがみこんでただ声を出して泣いた。

・