Wolf (ページ23)

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『Aちゃん。俺壱馬をリビングへ運ぶから、タオルとか持ってこれる？』

「えっ...」

私なんかより断然冷静な北人さん。
手に持っていた荷物を肩にかけて、腕まくりをする。
追いつけていない状況にさらに情報がはいってきて、私の頭はパンク寸前。
だからか、北人さんの私への言葉は耳から耳へと通り抜ける。
頭では分かっていても、体は動けずにいた。

『Aちゃん...！壱馬いなくなってもいいの！？』

「っ＿＿＿＿＿＿＿」

そんな私の様子に、北人さんは肩を掴み私を揺らした。
私をまっすぐと見つめる真剣な瞳。
私は小刻みに横に首を振る。

『早く！』

その北人さんの言葉ともに私はお風呂場へと廊下を走る。
お風呂場のドアを開けると、何故か全身が震えた。

“いなくなってもいいの？”

北人さんの言葉が頭から消えない。

私は震える手を動かし、戸棚を闇雲に開ける。
ほとんどは空で、たまにシャンプーなどがあるだけだった。

「どっ、どこ...」

焦りが込み上げ、余計に手が震える。
その震えが棚につたわり、棚がカタカタと音を立てた。

「あった...」

最後の最後で開いた棚。
そこに山積みになっていたタオル。
私は数枚鷲掴みにすると、リビングへ向かった。

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