呪術廻戦*狗巻くんの心の声

7.優しさ ページ8

2週間経って、私は全ての手続きを終えて高専に転入し、寮へ越して来た。


「転校？呪術？…へぇ。気を付けてね」
〈意味分かんないけど、良いか。先生カッコいいし〉


親は適当なので、簡単に許可をくれた。


「え、A転校するの？寂しいよ〜」
〈あー、コイツいなくなるんだ。課題写させてくれる奴いなくなるけど、まぁいいか〉


友人はそんなことを言っていたが、本音が聞こえているので何とも思わない。

「私も寂しい」と嘘を吐き、別れを告げた。


お父さんに車で荷物と一緒に送ってもらい、寮に着く。

いくつも段ボールを運んでいると、狗巻くんが駆け寄って来てくれた。


「高菜」
〈重そう…手伝わなきゃ。Aが折れちゃう〉


おにぎりの具と共に、そんな心の声が聞こえて来る。
これくらい平気なのに、折れるなんて大袈裟な。


『…手伝ってくれるの？』

「しゃけ」

『じゃあ、お願いしようかな。ありがとう』


〈笑ってくれた…可愛い〉


狗巻くんの心の声は、いつも〈可愛い〉と言ってくれる。

それが恥ずかしくて、どういう顔をすればいいのか分からなくなる。


「…すじこ？」
〈これ、部屋に運ぶのかな？〉


狗巻くんが首を傾げている。

思念で彼が何を言いたいのかは分かっているけど、簡単に彼の言うことを言い当てて疑われるのは怖い。

私はいつも、分からないフリをする。


狗巻くんは必死に伝えようと、段ボールを指差し、次に部屋の扉を指差す。


『…ん、お部屋までお願い』

「しゃけ！」


〈Aの部屋、入るんだ…緊張するな…〉


扉の前で、そんな心の声が聞こえて来た。


『…あ、そこに置いておいてくれて大丈夫だよ。後は自分で出来るから』

「…しゃけ」

〈…ちょっと残念だけど、しつこいと嫌われるからいいや〉


狗巻くんの良心に、私は心が痛くなる。

でも、狗巻くんの心の声で自分の行動を変える訳にも行かない。


『ありがとう、狗巻くん』

「しゃけ！」


〈…もう十分役に立てたかな。Aの笑顔も見れたし、満足だな〉


いつも、心の声で人に裏切られてきた。


でも、狗巻くんの優しさのお陰で、疑心暗鬼な私の心は救われた。

8.声援→←6.狗巻くん

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す