呪術廻戦*狗巻くんの心の声

34.本音 ページ35

医務室を出て寮へ向かう途中、ずっとある事を考えていた。


“女も警戒しなきゃダメ”と硝子さんに言われたことも、もちろん心に留めているが。

それより前に彼女に言われた言葉。


___ その好意にAが応えれば、少しはその未来も遠くなるんじゃない？


私よりも歳上の、大人である硝子さんからもらったアドバイス。

でも、“応える”という行動の本質が分からない。


『…難しいなぁ、人の心って』


天井を見上げながら呟く。


心の声が聞こえなければ、何を考えているのか分からない。

けれど、聞こえたら聞こえたでどうすれば良いのか分からないこともある。


ひとりでまた悩むのも虚しくなり、天井を見上げる視線を落とす。


こんなに悩む“能力”なんかじゃなくて、会いたいときに会いたい人が現れる“能力”の方がよっぽど嬉しいのに。


そう考えていたとき、目の前に私の“会いたい人”が現れた。


「…ツナマヨ」
〈A、いた…〉


私に小さく手を上げる彼。

「いた」と思っているということは、もしかして探してくれていたんだろうか。


『…狗巻くん。どうしたの？』

「おかか」
〈何だか急に、Aに会いたくなった〉


“何でもないよ”と言うように首を振る狗巻くんだけれど、その本音は私には届いている。


『狗巻くん』

「しゃけ？」


『…眠いから、もう寝ようと思って。おやすみなさい、また明日』


微笑んで、また彼から逃げた。


会いたくて、話したくて仕方がない相手。

そんな彼に本音をぶつける勇気は、私には備わっていない。

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