虎鶴の地 (ページ8)

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六の貢ページ8

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初冬に入った寛はすでに草木は枯れていた。木立が点々と並ぶ斜面ばかりが目立つ。

寛には四季はない。僕が住んでいた西の娜や東の岑(しん)には存在したが、この国は短い雪解けの期間の後は長い冬が続く。

ここに比べれば娜の冬はとても過ごしやすかった。外は寒いが積雪は年に数度降る程度。皆で火鉢を囲めば乗り切れる。

だがこの地は僕の背丈の何倍も積もり、食料も少なく、そして吹雪く。晴れた日の方が珍しいほど。

________いや、昔はここまで吹雪いていなかった筈だ。長く続く冬は寒さが厳しいことに変わりないが、連日連夜吹雪くことはなかった。

宋至様はご健在だろうか……楠昌山の麓まで迫った頃、吹雪く様子を宿の窓から眺め思う。窓枠にはびっしりと氷柱が連なり、ガラスには微かにひび割れていた。

僕は数年前まで、蕭安で宋至様の元で政治を学ぶ一生徒だった。そこから娜に移り本格的に学び、そしてその知識を活かし生計を立てた。

そして何年か経ったある日、璃は遜、崑を支配下に治め娜の手前まで迫った。

そんな時にある一点に気がついたのだ____。

_____仏滅971年、これまでなぜ統一に動いた国は一つもなかったのだ？八国が900年以上の間、全統一を成したことがないのは何故だ？

_____それは長年玉座に座り続けた王が一人もいないからだ。

この世はそれぞれの地に致命的な欠点があった。

寛は最も厳しい気候。
嚴(ごん)は掘れば減り続ける収入源の鉄鉱石。
岑は資源を輸入せねば成り立たぬ、難しい産業である芸術。
遜は独自の道を切り開けぬ故、常に名君を求めた。
崑は他国との交易がなければやっていけぬ。
娜は学問ばかりを奨励し軍備は牽に依存しすぎた。
牽(けん)は首都雍江(ようこう)に人々が集中しすぎた為の貧富の差。
そして璃は豊かな豊穣ある上での宗教色の強さ。

どの国も必ず数年ごとに自国の大きな問題に当たる。そして人々は王を退位させよと叫ぶのだ。

そう、今の今まで一度もこの世で“禅譲”によって退位できた王はいない。

あるのは“放伐”だけ。

北にあればあるほど厳しい環境に晒され、国内を纏めることが難しい。逆に南にあればあるほど目先の問題は摘みやすい。

______この世は璃に有利に動いた。備蓄が貯めやすく、宗教色が強いことも裏を返せば纏まりやすくもなる。

そして統一も成した。

しかしそれらを覆すかのような天災。

それは今度は寛が有利に立つ番なのではないか……僕はそう仮説を立て、恩師の元に参じた。