虎鶴の地 (ページ11)

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九の貢ページ11

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それから太陽が沈み、そして昇り、おそらく七度繰り返した頃。ようやく足の腫れが収まり、足も化膿することなく傷が塞がった。

虎珪様は私の頑なに口を開かぬ態度に愛想を尽かすこともなく、治療を続け、私が普段行う仕事を全てをやってのけた。こんなひょろっこい体のどこに重い薪木を運ぶ力があるのかは、皆目検討もつかない。

一日に何度も私の部屋にやってきては燃え尽きた火鉢を取り替えたり、はたまた八国についてわかりやすく説明したり。紙などという高級品が手に入らぬため、薄い樺の木の破片に文字を書いて教えてみせたり。

私は何の返事も返さないのに、よく飽きぬものだと見ていた。それから日が傾くと爺さんと毎日にように薄暗い居間で話し込んだ。虎珪様が扉を閉めて行ってしまうため余り会話は聴こえてこなかったが。

それでも爺さんの啜り泣くかのような響きは微かに聴こえてきたし、私の話をしているのもなんとなくわかっていた。

そして八日目の朝。私は意を決して虎珪様に尋ねた。

「なぜ、なぜ私は虎珪様と行かねばならないのですか？貴方が良き人であることは、わかるのです。だけどなぜ……」

虎珪様はとても困ったような顔で、それでもどこか諦めのような、そんな表情を浮かべた。

「詳しいことは言うべきでない、そう宋至様と話し合いました。……ですがこれだけは伝えようと思うのです。梨鶴様がこの国には必要であるのだと」

益々、訳がわからなかった。

極寒の地で生き抜いてきた日々と、物心付かぬ時に居た蕭安での朧げな光景と。

……薄々確信のないことを気づいているような自分と。

それら全てが悲しくて、この八日で納得してしまったこともあって。

この国はこんなにも寒い。

全て閉ざされたこの地に、育て親を見捨てる選択をしようとしていることが、只々悲しかった。身を切るような思いがした。

そしてそれら全てのことへ涙した。

「……大丈夫、宋至様がここへ移った頃から何もしてこなかった訳がありませんから。村の人々の助けがあります」

災厄がこの地を蝕む前に。厳しい生活であってもここは私を生き永らえさせた場所であるのだ。

目から留めなく落ちる雫を必死に拭いながら、掠れ気味の声で必死に問いかけた。

「……雪解けまでに戻ってこれますか？」

「貴女様次第ではありますが、きっと」

その日は日が暮れるまで泣き叫び続けた。虎珪様も、そして後から部屋に入ってきた爺さんも、私が泣き止むまで側でじっと見守っていた。