【恋うた】Disc 1 (ページ50)

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「…なに見つめてんの？」ふっと薮が振り返って、目を細めながら聞いてきた。「何か取ってほしい物ある？水？」

「…ううん…なんでも…ない……」

「何でもないならもう寝ろ。しっかり休まないと治るのも遅くなるぞ？」
薮は近づいてきて、目の前にドスンと床に座った。「ほら、目ぇ瞑って？」

「…宏ちゃん、今日はやさしい…」
思うがままに口にした呼び名。それに薮はふふっと笑みをこぼした。

「“今日は”ってなんだよ、いつも優しいだろう？」
言われた通り目を瞑ると、“うん、いい子だ”ってポンポンと頭を撫でられた。

寝落ちする直前に、『おやすみ、慧ちゃん』って言われた気がした。

携帯の振動音が鳴ってる…

その音で目が覚めた。

「…はい」

『伊野尾？今起きたの？おはよ』電話の向こうから薮の声が聞こえた。

「…やぶ…？…今なんじ…？」

『もう昼だよ、よく眠れたようでよかったな。とりあえず体温測れ』

寝ぼけてまともに動作してない脳が言われたことを素直に受け入れた。

「38.6…」

『おお、少しは下がってきたな』薮は嬉しそうに言った。『調子はどう？ふらふらしない？』

「…うん、だいじょうぶ…」

『そか。じゃあ、昨日のおかゆまだあるから、少しは食べな。それと、薬もちゃんと飲んとけよ？』

「…わかった」

『学校終わったらすぐ帰るから』

「……うん」

なんか、こんな会話、恋人っぽい。
不覚にもキュンときたのは、バレてないよな？

『じゃ、もうすぐ授業だから』

「……」

『伊野尾？』

「…なに…？」

『どした？黙っちゃって…あっ、プレゼントのこと？あいつ部活の連中に呼び出されたから昼会ってないけど、後でちゃんと渡すから、心配すんな』

そっか。
何か大事なこと忘れてるような気がするけど、今ので思い出した。

今日、光の誕生日だ。

本当は0時ぴったりで光んちにピンポンしに行く予定だったけど、俺が熱出したから…

夕方何回も電話かけてきたのも、そのためだったか。

俺としたことが…好きな人の誕生日、一番最初に祝ってあげたいはずなのに。

『伊野尾？もう切らなきゃだから、二度寝する前に飯と薬だよ？』

「…やぶ、」

『ん？』

「…ごめんね。」

『何謝ってんだよ笑。ほら、切るぞ。ちゃんと暖かくしろよ』

「うん」

通話が切られた携帯を見つめて、ちょっと泣きそうになった。

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話の途中ですが、移行します。