【恋うた】Disc 1 (ページ44)

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「あっ、ごめん、失礼なこと言ったな、ごめんごめん。」鏡越しに目を合わせて会釈した美容師さんの笑顔はとても優しかった。「でも本当に似合うと思いますよ。よかったらこれからもうち通いません？ぜひ担当させてもらいたいな～」

「待て！俺の友達にキャッチすんなよ！！」

「誰だって可愛い子を担当したいんだよ！！」

だから…可愛いって言われるのはなんか気持ち複雑だから、苦手だよね。

「いのちゃん、まだ怒ってる…？」
月曜日の昼休み、いつもの屋上、光が恐る恐る話しかけてくれた。

薮は担任の先生に呼び出されたらしく、“先に行って”ってメッセージが光んとこに届いたから、今は俺と光二人っきり。

なぜ俺じゃなくて光に連絡したかと言うと、今朝仮病して2時間ほど休んでしまって、学校来てからも薮に会っていないから、たぶん向こうは俺が来てることを知らないはずだ。

髪切ったからって学校行きたくないのは大人げなさ過ぎると分かってるけど、どうしてもクラスのやつに見られたくなくて、ずる休みという逃げ道を選んだ。

…すぐ4限の数学は小テストだってことを思い出して、結局学校に来たけど。

「怒ってないよ、最初から」

「えっ？じゃ本当に体調悪い？！」

「…いや、バッチリだけど」
偽装用のマスクを取ってたら光にキョトンとした顔を向けられた。

「なんだよ早く言えよ！元気なさそうだし休憩時間ずっと寝てたし心配するじゃん！」

「…なんか、面倒くさいもん、色々聞かれそうで」

俺みたいな地味なやつが急にイメチェンとかしたら絶対色々言われると分かってるんだよ…

てか聞こえてたし。

話しかけられないように寝たふりをしてる間に、あっちこちから“どうしたのあいつ？”とか、 “やばいな、男に見えない”とかの声が飛び交っていたのが。

それが苦手だから学校来るの嫌だったわけで…

髪型変えたことに家族は驚いたけど、爽やかでいいんじゃない？って良い評判でも、自分の中の違和感にはまだ勝ててない。

そして、なんとなく、薮にも顔を合わせづらい。

本当になんとなくだけど…
俺の髪型とか、そもそも気にするわけがないよ、薮は。

「どうして？みんな可愛いって騒いでたよ？いのちゃんに話しかけたいやついっぱいいたし」

「だから！野郎どもに可愛いって言われてもうれしくな「伊野尾？」

キーッってドアが開いた音とともに薮の声が背後から聞こえた。

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