【恋うた】Disc 1 (ページ12)

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「よかったー間に合って…」少し息が上がったからか、甲高い声がより甘く聞こえる。

「僕、なにか忘れました？」
あれ？財布も携帯もポケットにあるし、かぶってた帽子もカバンにつけてるし…何かあったっけ？

「ううん、あの…よかったら受け取って欲しいんですが…」
はいっ、と両手で渡したのは一枚のカード。

「せっかくですから、ポイントカードを作らせていただきました」

「えっ、いいんですか…？」金さえ払ってないのに…！

Kさんは優しい笑顔でうなずいた。

「もちろんです。大事なお客さんですから」

「ありがとうございます…いただきます！」
青いカードの表にはシンプルに店名と、右上に#0001のナンバーがプリントされてる。

俺が第一号ってこと？

なんか、めっちゃ嬉しい…！

「またのご来店、お待ちしております。」頭をごくっと下げ、小さくお辞儀をした。

では、失礼いたします。Kさんはそう言って踵を返した。

さやさやとそよ風に揺れる栗色の髪が太陽の光を浴びて輝いてる。

そんなKさんの後ろ姿を見ると、胸辺りに何か熱いものが込み上げてくる、その衝動に駆けられて、

「あっ、あの！」

「…はい…？」

俺に呼び止められて振り向いたKさんは首を傾げた。

「…あの、さん付けとか敬語とか、やめません？同い年ですし、その方が気楽っていうか…」
うっかり口に出した、訳の分からない願望を。

Kさんはきょとんと目を丸くして、ああ…やっちまった…と思ったら、次の瞬間また笑顔を見せた。

「じゃ…お言葉に甘えて、」どこか恥ずかしそうに微笑みながら言ってくれた。

「最初のお客さんになってくれてありがとう、有岡くん。」

この季節特有のじとじとした重たい空気が、その笑顔で一瞬ふわりと軽くなった気がする。

ドキ、ドキッ。

…今の胸騒ぎ、何なの？

-【ファンファーレ】fin.