Letter39〜サヨナラ。〜 ページ39
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やってきた朝。時刻は午前7時。
私の永眠まで5時間。
『あっるぅちゃんおはよ〜』
「おはよ〜。腰痛くないですか?」
『生憎平気ですねぇ』
朝から私を弄る余裕のありそうな彼ならこれからも大丈夫そうだね。
私は本を読むフリしてそのなかで何度も遺書を確認した。
この期に及んで渡す方間違えたとかだったら間抜けすぎる。
『いただきまーす!』
ねぇ、るぅちゃん。
私と一緒に食べるご飯はこれが最後なんだよ。
今そう言ったら貴方は何をしてくれるのかな。
『桜が満開だぁ』
「今日はお部屋の中でお花見しますか?のんびりしましょう!」
…あ、先に洗濯物干してきますね
なんて言い残し外へ出てしまった彼。
私には無い今日を貴方は生きるんだ。
桜のある美しい世界で、貴方は私が生きられない明日を生きる。
何年後も、ずっと。私の知らない世界を貴方は見る。
彼が庭にいる間に部屋へ戻った私は、メッセージアプリを開いて別れてからずっと触れることがなかった名前をタップする。
『ころちゃん』
やり取りは私の『ごめんね』で終わっている。
未だに既読すらついていない。
私は必死に文字を打った。
Aお久しぶりですね。突然ですがもし良かったら今日12時に桜乃公園に来てくれますか?少し話したいです。
送信。
これでいいかな。何度も試行錯誤した割には結局シンプルに纏まった。
来てくれるかもわからないし。
送信後もずっと既読がつくのを眺めていた。
なんか恋する乙女みたいだ。
私はそれだけの事にどれだけ時間を費やしたのか?
「A?部屋入るよ?」
『わぁ! 』
いつの間にか洗濯干しを終えた彼が部屋に入ってきた。
私は慌ててスマホを置く。
『ちょっとごめん 』
逃げるように遺書を抱えて部屋を後にしてしまった。
彼が私のスマホを見ているうちに 既読が着いたことを私は知らない。
リビングでワタワタ準備していたら時計の針は既に11時45分を指していた。
"春に外出することは命を潰す行為と等しい"
この前の診察でそう言われた。
大丈夫、私は死ねる。
『ねぇるぅちゃん!今から桜乃公園まで競走しよ!』
「えっ!?」
彼が私を捕まえる前に逃げなきゃ!
一生捕まらない鬼ごっこの始まりだよ。
足が軽い。躊躇いもなく桜の木の下を走る。
私は今から桜を見に行くよ!
るぅちゃん、ちゃんと見て。私は生きてたんだよ。
ちゃんと、その目で焼き付けて?
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mei - 何年経ってもこの小説が素敵すぎて読みに来てしまいます。3人それぞれの視点で読み返してみるとより深く考えさせられます。1つのお話として本当に素晴らしい作品だと思います。これを元に書籍化して欲しいくらいです。颯桜さんの書く素敵な物語に出会えて良かったです。 (4月1日 3時) (レス) @page49 id: ece57623d6 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - イチゴジャム・.。*・.。*さん» 素敵なコメントありがとうございます・・・!大変光栄です。 (2022年2月21日 20時) (レス) id: 86b77a05e2 (このIDを非表示/違反報告)
イチゴジャム・.。*・.。*(プロフ) - 小説、占ツクが好きになったのはこのお話がきっかけです。読んだのは結構前ですが、素敵な作品をどうもありがとう…! (2022年2月20日 12時) (レス) @page49 id: 3017e9e097 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 凛月さん» 凛月さん!素敵なコメントをありがとうございます。元から文を書くことが好きで趣味程度に始めた創作ですがこのように誰かの心の中に残るようなものを残せてとても誇らしく思います。これからもどうかよろしくお願いいたします。(私も凛月さんの作品好きです。) (2022年2月8日 0時) (レス) id: 86b77a05e2 (このIDを非表示/違反報告)
凛月(プロフ) - この作品を読んだのは随分と前のことなのに、今でも無性に読みたくなって、何度も戻って来てしまいます。占ツク外も含め、私が今まで読んできた小説全ての中で1番好きな作品です。本当に素敵な作品をありがとうございます。 (2022年2月7日 0時) (レス) @page49 id: 80b1d18970 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年3月1日 20時