. ページ43
.
「1ヶ月⁈」
「そ。1ヶ月」
すっとんきょうな声で聞き返す俺に、ヤスはケロッとした顔で復唱する。
1ヶ月。
たったの、30日間。
その間に、スティックすら握ったことのない俺がドラムをマスター…
「…無理や」
呟いた言葉に、眉を吊り上げのはすばる君だった。
鋭い視線が突き刺さる。
「オークラァ、すぐ決めつけんなや。やってみな分からんやろ」
「いや、だって1ヶ月て。横暴やん」
「社長が横暴なんは今に始まったことやないやんか」
「そうやけど…」
「死ぬ気でやればどうにでもなる」
「すばる君は、当事者やないからそう言えるねんって」
あぁ、まただ。
また俺の嫌なところが出てきてる気がする。
すばる君が、俺にずいっと近づく。
「オークラ、お前いまのまんまでええんか？いじけて、ずっと同じ場所に突っ立ったまんまで。お前、自分のこともうだいぶ嫌いやろ」
「っ、なんで…」
「俺はそうやって、どんどん腐っていって辞めたやつを沢山見てきた。だからわかる。
別に、そいつらは勝手に辞めてったらええわって思っとった。
でも…お前は辞めて欲しくないねん。俺が」
「すばる君…」
「1ヶ月後、もしできてへんかったら東京からJr.ひとり連れてきてツインドラムにすることも考えてるらしいで」
すばる君が、強い眼差しで俺を見つめる。
「チャンスやで。お前が努力して、オークラ1人でも十分やってなったら、お前の勝ちやで」
言葉は、胸のど真ん中に大きな存在感をもって俺を揺さぶる。
今まで全然、成果を上げられず
頑張りたくてもなにを頑張ればいいのか分からないまま
活躍している奴らを横目にくすぶった感情だけを抱えて今日まできた。
…これが最後のチャンスなのかもしれない。
これを逃したら、もう本当にここにいる存在意義も、未来もないかもしれない。
変わりたい。
どうしようもない自己嫌悪も、ドロドロの感情も、無くなるくらい、自分を認めたい。
多くのひとに、認めさせたい。
俺の存在を。俺の価値を。
俺の手で…
光を持っていないなら
自分から掴み取りにいけばいい。
「…やる。やってやる。死ぬ気で、血ヘド吐くまで」
気がつけば、拳をぎゅっと強く握りしめていた。
ヤスとすばる君が笑う。
やっとはじめの一歩を、踏み出した気がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 443人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あくび(プロフ) - ゆらさん» ありがとうございます！とっても嬉しいです。これからも面白いと思ってもらえるよう、頑張って更新しますので是非、結末がどうなるか見届けてください(^^) (11月2日 23時) (
レス) id: 780a2f1a45 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら(プロフ) - この話が本当に面白くて毎日の日課です＾＾これからも更新楽しみにしています！！私的には大倉くんで結末があるほうがさらに楽しみです(^^) (11月2日 20時) (レス) id: cc42456779 (このIDを非表示/違反報告)
あくび(プロフ) - megumonkeyさん» はじめまして、とても嬉しいお言葉ありがとうございます(TT)結末は決まっていて、それに向かってチマチマと書いているので、是非これからも更新楽しみにしていてください。 (10月30日 22時) (レス) id: 780a2f1a45 (このIDを非表示/違反報告)
megumonkey(プロフ) - はじめまして。ステキなお話で楽しみに読んでます。大倉くんと錦戸くん、どちらとくっついてしまうのかドキドキで、更新が楽しみです (10月30日 10時) (レス) id: fa40db60d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あくび
| 作成日時：2020年10月27日 22時
