一分間の恋人。＊桃＊ (ページ6)

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六分間。＋10円ページ6

午後一時。約束の時間だ。
ぶかぶかのスリッパを履いて玄関へ向かう。

玄関から少し病院に入ったところに公衆電話があるのだ。

生憎私はスマホというものを持っていないから、こうやって移動するしかない。
いままで必要なかったしね。まさか今必要になるとは思っていなかったけれど。

公衆電話の受話器をとり、十円を入れる。
左手で受話器を持ち、メモは机の上に。右手でゆっくり番号をうっていく。

なにせ二回目だ。使ってみたいとも思わなかったし。
うち終わるとプルルルと音がした。

『もしもし！！』

「こんにちは」

思ったよりはやくでた。びっくりしたわ。

「昨日のことなんですが、突然切ってしまいすみません。」

『いえ、大丈夫です。なにか用事があったんですか？』

少し悲しそうな声になった。
もしかして、私が一方的に切ったから拒否したみたいになっちゃった？

「実は、私公衆電話からかけてるんですよ。だから、少ししか話せないんです。」

『そうなんですか…』

はやく要件済ませちゃわないと。時間きちゃう。
「貴方とはお付き合いすることは出来ません。」って。

『っあの、』

「はい？」

『…明日も、電話したいです。』

「…」

どうしよう。私は百瀬さんとは付き合わない。
…でも、

「いいですよ。」

『！！ありがとうございます！』

「それで、昨日のお返事のことなんですが、」

『っはい、』

なんでだろう。こっちも緊張してきた。なんだか初めてのことばかりだ。

言うんだ。私。振らなきゃ。
中途半端な気持ちで付き合っても百瀬さんを傷つけてしまうだけだ。

でも、『また電話したい。』なんて言われたら断れないよ。

「…一日一分間だけ、恋人になりましょう。」

『え？』

「私が毎日この時間に百瀬さんへ電話をかけます。公衆電話は十円で約一分間です。この時間だけ、私と百瀬さんは恋人同士です。」

『…』

…あ、勢いで言ってしまったけどこんなの最低だ。
謝らないと、「すみません。」って。
私のことを想ってくれる人になんて失礼なことしてしまったんだろう。

急いで口を開こうとした。でも、それは百瀬さんの声で遮られた。

『分かりました。一分間だけ、俺とAさんは恋人です。』

「では、また明日。」

時間通りに切れてしまったことがなんだか少し悲しかった。