アイドル《赤》

7 ページ7

.






重「…っと、風邪、っぽいんですけど…」









気まずそうに視線を逸らして呟く彼。







たしかに、少しの声が掠れているし、



顔色も良くはない。







高校時代から、あれだけ健康には気を遣っていたのに。










大人になっても、意外と身体の中は弱いところ、変わってない。















って、だめだめ。









いつまでも高校時代の大毅くんに重ねて見てしまうところは、私の悪い癖。











たかが元カノが、いつまでも知ったかぶってるなんて嫌気が差す。























それでもまだあの恋心を忘れられてないのは事実。







聴診器を当てるのも、口内を見るのも、今までで1番緊張して。







研修医時代でも、ここまで緊張はしなかったのに。


















『……えっと、うん、風邪、ですね。

お薬、一週間分処方しときます。毎食後、飲んでくださいね。』















震える手でカルテに情報を打ち込む。













重「……夢、叶ったんやな。」







突然声をかけてくるものだから、動かしていた手が止まる。





それでも今は仕事中。







素っ気なく、まあ、とだけ返してまた手を動かし始めた。






　






別れたからといって、出会う前の2人に戻ったわけじゃない。











そんな当たり前のことが目の前に突きつけられたみたいで、心がキリキリと痛んだ。









.

8→←6

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す