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ハンガリーの諺 ページ38










「 ほんともう、驚きましたよ 」
「 すまん乾……助かった…… 」








 真っ赤な顔でベッドに横になっているAさんの額に、そっと冷やしたタオルを乗せる。
 その様子を、小さくなった伊沢さん達はじっと見つめていた。



 時を遡ること、朝の九時。
 今にも死にそうな声のAさんから電話を貰って駆けつけてみれば、彼女は寝室で見事に倒れていた。
 おまけにこうちゃんや山本さんはそんな彼女の傍でわんわん泣いていて、所謂カオス状態。
 流石の俺でも、全ての状況を把握するには少し時間がかかってしまった。



 ベッドに運んだAさんの手にはスマホが握られたから、恐らく気絶する前になんとか俺に電話してくれたのだろう。

 本当は来る途中に冷えピタやら買いたかった所だが、「 早く来てくれ乾……じゃなきゃ私の寝室は汚物パラダイスになってしまう…… 」なんて言われたら、家に直行しないわけにはいかない。









「 Aさん、お粥食べれますか? 」
「 無理。てか吐く。袋 」
「 はいどうぞ 」
「 おえぇぇ 」








 もう吐くものなんて無いだろうに、袋を渡すとAさんは直ぐ様胃の内容物を吐き出す。
 その際ツーンとした刺激臭が鼻腔を突き刺すが、この人とよく飲む俺は結構この状況に慣れている。だってAさん、飲み過ぎると吐くし。









「 はぁ、はぁ……なんか、自分のなにかを失った気がする…… 」
「 スッキリしました? 」
「 お陰さまで…… 」









 起きれない彼女から袋を受け取って、丁寧に口を縛り、ゴミ箱に捨てに行く。そのまま洗面所でてを洗い、寝室に戻ってくると、なにやら布団の中からズビズビと鼻を啜る音が聞こえてきた。
 え、なに、もしかして泣いてる?








「 いぬい、どーしよ。おねーさんないちゃった 」
「 えぇ……Aさんどうしたんですか?頭痛い? 」
「 違う……なんか全部、辛くなっただけ……会社も、生きるのも、全部…… 」








 滅多に見せてくれない、Aさんの弱気な部分。
 あぁそうか。この人はずっと、こうやって、一人で泣いてたんだ。
 辛くて辛くてどうしようもない時も、誰にも弱音を吐かず、ずっと一人で溜め込んでたんだ。








「 ……Aさん 」








 貴女は十分頑張ってるよ。
 だからもう、逃げて良いと思うんだよ、俺。


 貴女が戦う場所は、きっとそこじゃないから。








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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時

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