馬鹿じゃないので ページ35
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目を開けた瞬間から、いや、もっと言うと意識が浮上してきた瞬間から、遊園地でよく見るコーヒーカップに乗せられてるような感覚があった。
グルグルと頭の中が周り、胃がムカムカするような感覚。扁桃腺が腫れているせいか喉にも激痛が走って、私の意識は半ば強制的に引きずり出された。
そして今、私は体のダルさに耐えきれず起きれなくなっている。
こんな酷い風邪は始めてだ。頭が痛くて死にそう。頼む、誰か助けてくれ。
「 おねーさん？ 」
「 ん、その声は…… 」
朦朧とする意識のなか、聞こえてきた声の方へ視線を向けると、頑張ってベッドまで登ってきたらしい福良くんの顔が間近にあった。
もしかして、そんな小さな体でここまで来たの。一応何かあったときの為に扉は開けてるけどさ、結構な重労働だったでしょ。これくらいの風邪なんてすぐ治るんだから、そんな心配しなくて良いよ、福良くん。
……なーんて言えたら少しはかっこがついたのだろうか。
残念だが今の私にそこまで気が回る脳みそはない。あるのは「 君がメシアだったんだな！！ 」と意味の分からないテンションで叫ぶ使い物にならない脳みそだけだ。
「 福良くんじゃないかぁ……今日も可愛いなぁ……はっはっはっ…… 」
「 ちょ、おねーさん、なんかおかしーよ？あさもおきてこないし 」
「 あー、そうかぁ……朝御飯…… 」
福良くんに言われて、漸く思い出す。朝は会社に行く前にご飯を作ってる筈だから、もう作ってなきゃいけない時間なのか。
ということは会社に行くにはもう起きなきゃいけないってことで……あーもーヤバイじゃん、早く起きないと。遅刻なんてしたら、日を跨ぐ羽目になってしまう。なんとかして、体起こさなきゃ。
大学を卒業してからの数年で体に染み付いたルーティーンが、鉛のように重い体を意地で持ち上げる。
いける。起こせばあとはこっちのものだ。
こっからすることなんてたかが知れてる。朝御飯作って、着替えて、化粧して、出勤するだけだ。
いつもやってることなんだ。今日だけ出来ないなんて、そんなこと―――。
―――ﾊﾞﾀﾝｯ
「 き、気持ち悪い…… 」
「 おねーさんっ？！ 」
ありました。今日だけはどう頑張ってもキッチンに辿り着くことすら出来ません。諦めましょう。
あーダメだ、床に倒れて痛い筈なのに、起き上がれない。
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作者名：朝田 | 作成日時：2020年12月29日 18時
