犬後輩のお世話 ページ22
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「 いぬい、そこ、ごじ。ごじしてる 」
「 分かった分かった。分かったから引っ張らないでください、伊沢さん 」
「 だってひまなんだもん 」
体が小さくなって暇を持て余している彼らの相手はかなり骨がいる。
今俺はお世話係を務めるのと同時進行でQuizKnockでの仕事も片しているのだが、如何せん、周りは皆俺の先輩だ。
いつもは後ろを通りがかった時に「 そこ、抜けてる 」と指摘される程度だったのが、今じゃ四方八方から指摘が飛んでくる。
そうして彼らの目が光っている以上、俺は一寸の油断も許されない。
お陰でいつも以上に疲れる。
「 おぉ、いいんじゃない? 」
「 よっしっ! 」
漸く俺の肩に腰かけている河村さんからお許しを貰ったときには、時計の針はとうに二時を回っていた。
自分達で食事の用意が出来ない伊沢さん達は、小さな体で出せる力を目一杯使って、お腹空いたお腹空いたと俺の服を引っ張ってくる。
お世話係というのも存外楽じゃない。
長時間のデスク作業で凝り固まった肩を回しつつ、昨日Aさんと買ってきた食材を冷蔵庫に調達しに行く。
中には挽き肉や豚肉、卵、玉ねぎ、生姜...等々。
「 生姜焼きかな…… 」
福良さんの分は玉ねぎを抜くとして、主役はそれでいこう。
水上さんからおままごとセットみたいな小さい食器も貰ったし、一人前作って小さく盛り付ければ大丈夫だろう。
必要な材料を取り出して、パタンと冷蔵庫を閉める。
……と、その衝撃で、冷蔵庫の上に置かれていた一冊のノートがバサリと俺の頭の上に落ちてきた。え、いった。
「 ……小人日記? 」
落ちてきたノートの表紙には、女性らしい綺麗な字でそう書かれていた。
ほんとは覗かないのが正しい行動なのだろうが、やはり好奇心には勝てない。
そっと中身を覗くと、最初の二ページはあの七人のメモ的なものだった。
日記らしい日記が始まったのは、その次のページから。
< あの子達が居てくれる限り、私は生きていけそうだ。 >
最後に綴られていたその一文を、そっと指先で撫でる。
……かなりブラックな会社に就職したってことは知ってた。
けど、あの人、俺の前じゃ「 ブラック企業入っちまったよ〜 」なんて軽く笑い飛ばしてたから。大丈夫なのかなって、思ってたのに。
全然大丈夫じゃないじゃん。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時