二十四通目 ページ24
その頃、健吾は応援席で総士と話していた。
二人の関係は、例えるならばAと和菜のようで、幼い頃から関わりがあり一緒に居る仲である。役回りを当てはめるなら、落ち着いているように見える健吾はAで、快活で人当たりの良い総士は和菜といったところだ。
ただ彼女らと違うのは、小中学校が校区の違いで別だったことだった。今の学校は二人で共に目指した高校で、無事合格した彼らはほとんどいつも一緒に過ごしていた。
トラックを走り切るAの姿を見た総士は未だ彼女の方に視線を向けながら言った。
「あの子、前に体育で見たけど、速いな。健吾知ってるか?」
興味を示すその何気ない問い掛けが、健吾の胸の中に小さな濁った炎を生んだ。
「知ってるどころか、同じクラスで隣の席だけど」
「クラスはハチマキの色で分かんだろ。隣の席? それは驚きだけど、よく知ってんのか?」
「なんで?」
「いや、何となく」
徐々に健吾の口調に棘が見え始めるが、総士はそんなこと全く気付いていないようで変わらず問い続ける。
「で、知ってんの?」
「知ってるけど、知らない」
健吾はわざと意地悪な答えを選んだ。Aの想い人が自身の親友の総士であるのを一方的に知っているのと、この親友の気になる相手も知っていたため、今の彼が酷く無神経に見えて怒りを示したのだ。
「なんだそれ。てか、何で怒ってんの」
いつも一緒に居た仲であるし健吾が感情を表に出さない方であるので、総士には容易に彼の怒りが伝わってしまったようだ。
「怒ってないって。そう言えばどうなった? 後輩の瀬戸口さんだっけ」
Aの話から総士の意識を逸らしたいのと、彼の心の動きを確かめたくて、健吾は話題を変えた。そしてその思惑通りに、親友は明るい顔をして迷いなく答えた。
「順調! このまま上手くいけばいいんだけどさ」
「へえ、良かったね」
総士の答えは望み通りであったはずなのに、健吾は複雑な心境になった。そしてその後、友人の声を話半分に聞きながら、胸の中で考え事をした。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時