十七通目 ページ17
彼の眩しさに目が霞みそうだ。Aにとっては目の前に立つ少年が太陽みたいに輝いて見えた。さっき触れた熱を纏う指先をきゅっともう片方の手で握る。
この時まだ少年を知らなかったAは、同じくらいの歳だろうか、少なくとも年下ではないだろう、と予想した。
この少年こそが福森総士だった。
「これ、どうぞ」
ぼうっとしたままだったAに総士が言った。Aの背では背伸びが必要だったその本の高さは、彼には丁度手の届く範囲のようで、軽く引き出し笑顔のまま手渡して来た。
「えっと、私は別の物を借りるので、どうぞ」
遠慮がちな性格の彼女は、素直に好意を受けることが出来ない。握っていた手をほどいて両手を横に振り、やんわりと拒否を表した。
しかし総士はそんな彼女の意志を受け取るどころか全く聞き入れないという具合に、更に本を前へと差し出す。
「いや、俺はこれ借りるの二回目だから、先に借りていいよ」
気さくにそう勧められ、断る術を失ってしまったAは、ぎこちない手でそれを受け取った。申し訳なさは消えなかったが。
「ありがとうございます」
「全然いいよ」
用の済んだ彼が軽く手を上げた後そこから去ろうする。
「あ、あの!」
その時Aはどういう訳か引き止めてしまった。意思を飛び越えて思わず出た声だった。
彼が「何?」と不思議そうにもう一度こちらを向いた時、彼女は初めて自分の行動を自覚して頭が真っ白になるほど脳内はパニックになった。
こちらを見る彼は、明らかに用件を求めている。Aは上手く働かない頭で必死に話題を探し出して、漸く出たのがこの質問だった。
「好きなんですか? この本」
その問いに総士の目はみるみる明るくなった。そして、にかっと歯を見せて口角を上げた。
「本は苦手だけど、この作家だけは好きなんだ」
今度こそ彼はそこから去った。
この作家を好きになれたらいいな、とAは強く思った。ふわりと浮いたように落ち着かない心が胸の中で鳴っていた。
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megumi(プロフ) - パトさん» 素敵なコメントありがとうございます!幸せな時間を差し上げることが出来たなんて、とても嬉しいです。これかの執筆活動の励みになりました。 (2021年3月7日 19時) (レス) id: 1a15500b7d (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - 素敵な作品を作って下さりありがとうございます。文章が綺麗でほのぼのとした雰囲気も好きすぎて、一気読みしてしまいました。幸せな時間をありがとうございます。 (2021年3月7日 17時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2020年2月1日 23時