哀しまずに生きて ページ31
-Aside-
私を抱き締める彼の腕の力が少し弱まる。私の胸は、逆に強く締め付けられる。
離さないで欲しい。さっきよりももっと強く痛いくらいに抱き締めて、その体温が体に消えないくらいくっきりと残るように。
けれど、そんな胸の内とは反対に徐々に彼の温もりは柔らかいものに変ってゆく。
もう私の腕は自由に動かせる程に解放されている。
早くもう一度彼を押して離れなければならない。理性は私に早く離れなさいと警鐘を鳴らしている。
いくら休日の朝と言っても、早朝ではないので人が全くいない訳ではない。行き過ぎる数人が、ちらちらと私達に視線を投げては、気まずそうに足を速めて去る。
「あの、朝倉さん――」
「何も言わないで。君が言った約束だろ？」
そんな意地悪を言う彼は初めてでまるで違う人のようだけれど、そこに本当の彼の欠片を見た気がして、私の言った"話さないで"はそういう意味ではないのにと思いながらも、何も言えなくて動けなかった。
彼の彼を垣間見たことが、彼が彼を少しでも私に出してくれたことが嬉しくて、でもそれが最後のこの日だったことが悲しかった。
今までの彼は、やはり彼ではなかったと分かったから。
彼の背中に回しかけていた手を、背中の直前で強く空気を握りしめて下ろした。
「朝倉さん、あなたは……私を失っても数日寂しいだけで済みます」
彼が否定しても、それは事実である。言葉にして自ら口に出すと、ザーッと心の中身が零れ落ちてゆくような深い痛みが襲う。声が震える。
「でも、奥さんを失ったら、もう自分自身には戻れなくなるんです。きっと息も苦しくて、毎日をどう生きたらいいか分からなくなる。明日目が覚めたら、またその人の声が聞こえそうで、でも居ないんです」
ゆっくり震えの止まらない言葉を繋いだ。
「A……？」
そっと二人の体は離れてゆく。私は俯いたままで、彼の顔は見えない。
「毎日、確かに暦は進んでいるのに、自分の時間は止まったままで、同じ哀しみを考えては夜が明けて、その繰り返しなんです」
「A……」
「そんな風にあなたにはなって欲しくない。大切なものを見失って欲しくない。だから、さようならです」
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m！ (2020年2月12日 8時) (
レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます！この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします！ (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです！！頑張ってください！ (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります！好きになって下さって嬉しいです( *´艸｀)更新頑張ります！ (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年7月26日 23時
