そのままで ページ13
二人ともソファのすぐ前で、それを背もたれにして隣り合って座っていた。
「そう……分かった」
由貴が私の髪を撫でながらポツリとそう呟いた後、誰も何も話さずに斜め下を見て、少しの間そうしていた。
彼女が息を吸い込む音がした。
「外に食べに行く? 気晴らしにもなるだろうし」
首を傾げるように私の方を由貴が向いて、明るい口調で誘ってくれた。
それは私を思ってのことだと分かっていた。昨日から迷惑をかけ、散々話を聞いてもらい、感謝しきれない程なのだけど、私にはその誘いに応えることがまだ出来ない。
「お昼か……。でも、ごめん、ちょっと食欲ないかも……」
申し訳なくて、ぎゅっと膝を抱えた。きっと彼女だって、外に出て空気を変えたいはずなのに、それが分かるのに、どうしようも出来ない。ごめんね、由貴。
「そっか、そうだよね。ごめん、外の空気で気分も少し晴れるかな、なんて浅はかな考えしちゃって」
彼女の言った"ごめん"に反応して、顔を上げた。謝らないで欲しい。私がもっと悪者になる気がする。
「ううん。由貴は謝る必要一つもないよ。謝るのは私の方だし、とても助けてもらったし」
彼女の方にぎこちなく向き直るけど、上手く視線が合わせられない。
心の中に居る自分が責めてくる。罪悪感や寂しさ、数えきれない後悔。
「もう何日か泊っていったら?」
それは救いの手だけれど、取れない。
「これ以上迷惑かけられないよ。ちゃんと自分の足で立たないと……」
本当は甘えたい。
「A、強くならなくてもいい。立てなくても、頑張らなくても、そのままでいい。いつかきっとまた笑顔になれるから。泣いてもいいし、甘えてもいいんだよ」
その言葉に、何かが限界になる。
「ごめん、あり、ありがとう」
胸がざわりとなって、涙腺を押し上げた。
「ほら、吐き出していいよ」
「私、ずっと、ずっと、寂しかったの。お母さんが居なくなった時から、ううん、もっと前から、寂しかったの……」
溢れてくる心の欠片たちが、叫んで泣いている。
「うん、うん、辛かったね。もう幸せになっていいんだよ」
それらを拾い集めて優しく直したのは由貴の言葉だった。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時