桃色 7輪目 丸井side ページ8
-丸井side-
「うぇ！ 何か、すんません！ そんな怖い顔しないで下さいよー。丸井先輩もジャッカル先輩も」
そんなに表情が鋭かったのか、にしてもジャッカルまで。
赤也の声を最後にこの会話は終わったが、何故か嫌な予感がしてならなかった。
結局それは、帰り道になるまで尾を引いていた。そんなことあるはずないのに、もしAが聞いていたらどうしようと不安が募る。
いつもと何ら変わらない、二人での帰り道で、同じように並んで歩いている。
近くなったAとの距離が離れてしまいそうで、隣で揺れる柔らかい手に指を伸ばすけれど、空を切って虚しく下ろす。すぐ隣に居るのに繋ぎ止められない距離が、痛いほど切なくなって、胸を刺す。
そんな俺に追い打ちをかけるように、二人の間に風が通った。生温い空気の中で、Aが立ち止まる。不意を突かれた俺は、数歩前で遅れて止まり、斜め後ろのAを振り返る。
日が長い季節なので、まだ明るい。そのはずなのに、Aの表情が見えない。醸し出される雰囲気が、胸の中に押し込めたあの嫌な予感を引きずり出す。
いったいAは何を言おうとしている？
俺を頼ってくれる時、いつもはあの場所だった。秘密の場所という訳じゃないけれど、二人だけの小さな時間が訪れる場所。
でも今は帰宅途中の道で、Aは何かを言い淀んでいる。
だからそれはきっと、俺にとって良くないものだ。
「ブン太、ごめんね」
夏なのに冷たい。
「こんな言い方、間違ってるかもしれないけど、もう、待たないで欲しい……。待っててなんて、前に酷いこと言ってごめんなさい」
「幸村君、なのか？」
その問いかけに、Aはゆっくりと首を振る。
「違うの。私なんかの為に――」
苛立ちが込み上げ、堪らず、少し乱暴にAを抱き寄せた。
「苦しいよ」と腕を軽く叩かれるのを無視して、更に力を込める。
以前までは俺の腕の中で余裕のない顔をしていたのに、今回はやけに落ち着いているAの態度に悔しくなる。密着しているのに、一番遠くに居る気がして、呼ぶ。
「"私なんか"とか、言うな！ 俺は、お前が好なんだ。一番大事なんだよぃ」
数秒間の静寂の後、胸がふわりと押された。
Aのその優しい腕が、とてつもなく痛かった。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます！登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います！ (2021年3月5日 18時) (
レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます！楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました！沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です！ (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年7月11日 22時
