水色 9輪目 ページ33
-Aside-
「お前の信ずる道を行けばいい。一番に望むものをしっかり見据えることだな」
柳君の言葉が重たく胸に居座っていた。
私の一番に望むものはなんだろう。
「Aさん、今から進路相談室まで来られるかしら？」
気分が回復しないまま一日を過ごし、帰りのSHRが終わった後にため息を吐きつつ鞄に荷物を詰めていると、担任の先生に呼び止められた。
薄々、何か言われるかもと予想はついていた。国立の医学部を目指しているのに、三年生の夏休み前に成績を落としたのだ。
私は小さく「はい」と返事をして、先生の後を追った。
教室の半分以下の狭い部屋に茶色い古びたソファーが二つ、机を挟んで置いてある。
物腰の柔らかな先生が静かに座り、促されて私も向かいに腰を下ろす。一拍おいて、先生はその綺麗な眉を軽くひそめながら、優しく言った。
「ごめんなさいね、呼び出してしまって。成績の安定していたあなたが、珍しいと思ってね。何か悩み事でも？」
「いえ、えっと……」
図星だったが、その悩みは勉強関係でも家庭関係でも無いので、先生に打ち明けるようなことではない。
何と答えたらいいのか分からずに、気まずく視線を逸らして俯く。
「夏は受験生にとって勝負の時期だから。あなたが内部進学するつもりなら、それ程心配することでもないのだけれど、あなたは外部受験生で、目指してるところも目指してるところだから」
心配する先生の声で、進むべき道が、一番に望むものが照らし出されたような気がして、私は顔を上げた。
「しっかり復習して、模試でも学校のテストでも成績を上げるように努力します」
私が最も望むものは、将来の夢――医者になること。その為には、他のものを捨てよう。もう迷わない、決めたんだ。
必死に頭の中に散らばる悩みを振り切る。
「その目を見る限り、決心したようね。でも――」
先生は笑顔でそう言った後、長い髪を軽く耳にかけてから、続けた。
「何事にも、後悔しないようにね。例えば、恋とか、ね」
その言葉に私が驚いている間に、先生は立ち上がる。
「青春は短いけれど、勉強以外にも大切なことが沢山あるのよ」
教師が言う台詞ではないけどね、と悪戯っぽく私を見てドアまで歩いて行った。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます！登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います！ (2021年3月5日 18時) (
レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます！楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました！沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です！ (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年7月11日 22時
