水色 4輪目 親友side ページ28
-あずさside-
初めての恋は静かに幕を閉じた。
たった九か月――言葉にしてしまえば短い。
早かった、そう多くの人は思うかもしれない。
だけどあたしにとっては、長くて濃い季節だった。
二人で過ごした時間は思い出になって、きっとずっと胸に留まり続ける。いつかそれが輝く宝物になるはず。そこに幸せが確かにあったから。
「あずさ、俺は――」
「精市！ これ以上……もう何も言わないでいいよ」
終わったこの恋にどんな言葉を投げても、その花は蘇ってはくれない。
休日の空き教室、水滴が窓に伝う。しとしとと穏やかに刻まれる音だけが、この空間を埋め尽くす。あたしの心も、乱れていた昨日までが嘘のように静かだ。
この日まで、抱き締め合い、口付けを交わし合ってきた二人がそこに居る。けれど今は影が重なることはない。視線は互いに落とされて、見つめ合うことはない。
それでもこの空気が暗い色に染まらないのは、二人が過ごした日々が満たされていたからだろう。
「ごめん」
「謝らないで。精市と居られて幸せだったから」
雨と共にこぼれる涙の意味はなんだろう。
「これからは、また友達としてよろしくね」
いつかの精市の台詞、今度はあたしの番。
「ああ、もちろんだよ」
差し出された右手を握る。それは友達という約束の証だ。
まだ止まらない涙をそのままに、顔と一緒に口角を上げる。
精市が流す涙が見えて、温かい気持ちになる。
可笑しいね。あたし達、別れ話をしているのに、泣きながら……笑ってる。
「あずさ、これだけは言わせて欲しい。大好きだったよ、意味が変わってしまっても、好きなのに変わりないから」
きっと精市とあたしの涙は意味が違う。
「あたしも……大好きだったよ」
あたしはまだ、恋愛感情を残している。
過去からの情だけじゃなくて、やっぱり哀しくて、少し悔しい。
だけど、進むって決めたんだ。大丈夫、胸にしまった日々が背中を押してくれる。
「さようなら」
いつも見慣れたこの教室が、その一言だけで、それだけなのに、違った景色に思えた。
梅雨の中、花を散らしたのは温かい涙。
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます！登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います！ (2021年3月5日 18時) (
レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます！楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました！沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です！ (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2019年7月11日 22時
