水色 2輪目 親友side ページ26
-あずさside-
「仁王君、ちゃんとAと向き合ったよ」
Aの答えを聞いた翌日、屋上で寝そべる男に結果を報告する。
「ほう。で、その子の本音は聞けたんか」
まるで興味の無い調子でだらっと反応する彼だが、いつものことなので気にしない。
「うん。精市のこと、今もまだ好きだって」
仁王君の特等席である塔屋の上に登り、隣に座りながらそう答えると、「それだけか?」と彼は目線をこちらに流す。
「あたしに幸せになって欲しい気持ちが一番だって。やっぱりあの子は根っからのいい子だった」
小さなため息を吐いて言うと、また彼は興味なさげに「ほうか」と一言だけ返して瞼を閉じた。
そんな彼に呆れながら、自分も頭の後ろで手を組んで上半身を地に預ける。
「身を引かなきゃな……」
流れる雲を眺めながら、独り言のように呟いた。
風が頬を撫でて、眠気が誘われる。
暫くまどろみの中で揺られていると、隣から低い声が響いた。
「幸村の気持ちは分からんぜよ。それに付きおうとるのは、おまんじゃきに、自信持ったらええやろ」
客観的にあたし達の関係を見ているだけならそう言えるだろうが、その渦中に居る自分には分かる。
「精市はAを見てると思う」
目を逸らしたい事実を口に出すと、辛さは倍増する。無意識に目頭が熱くなる。
彼はそんなあたしをちらりと見て、視線をそのままに、少し強い口調で問いかけた。
「おまんの気持ちはどうなんじゃ」
「え?」
「おまんは本当に幸村を好いとるんか」
ドキリと心臓が脈打った。
あたしの愛が不安定なことを、何処で見抜いたのだろう。
それとも試されているのだろうか。
答えることも取り繕うこともできず、ただ目を泳がせる。
「心は移り変わるもんやきのう」
「……分かんない」
やっと出た一言だった。
「そんな辛そうな顔しとるんは、まだ好いとう気持ちはあるんじゃろ」
「分かんない」
ただそう言うことしかできない。実際、自分の心は霧が立ち込めている。
「のう、お前さん。自分の人生は自分で決めるもんぜよ」
より低くなった声が、胸に深く刺さる。
あたしは今まで、Aや精市に責任を押し付けようとしていたのか……。
「自分のことは、全部自分の責任か。ちゃんと決めないとね」
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megumi(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!登場人物達に寄り添ってお読み頂き、とても嬉しいです。沢山のお褒めの言葉と、作品を好いて下さり、ありがとうございます。これからも、執筆活動に勤しんでいきたいと思います! (2021年3月5日 18時) (レス) id: ba823ca860 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 他の作品と比べるのは野暮かもしれませんが、今まで読んだどの小説よりも心理描写が丁寧で登場人物に共感しまくりでした。きゅんきゅんしたり苦しくなったり感情の変化が忙しかったです。2つのエンドを見れたのも嬉しかったです。何回も読み直させていただきます。 (2021年3月5日 15時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - YUEMINさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて、作者はとても嬉しいです(*^▽^*)応援に応えられるよう、頑張りたいと思います (2019年10月21日 18時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
YUEMIN(プロフ) - 完結おめでとうございます!楽しく読ませていただきました!!次回作も頑張ってください。応援してます。 (2019年10月21日 18時) (レス) id: 1af2bac581 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - ユッキーさん» いつも応援して下さり、ありがとうごさいました!沢山感じて頂き、嬉しく思います(^^)恋という感情は不思議ですよね。この作品を素敵と言って頂き、感謝です! (2019年10月14日 7時) (レス) id: b41fbb72a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月11日 22時