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5話 ページ5

胸を焦がすような熱情も、
ついつい目で追ってしまうことも、
ほんの少しでも近付きたいっていう欲望も、
相手の為に尽くしたいって気持ちも、
何も……、なんにも、分からない。


「私だって、頑張ったんです。好きになれるかもって、付き合ったこともあります。……でも、でも、駄目だったんですよ」


その時の相手は、本当に私を大事にしてくれた。いつも優しく笑っていて、この人と付き合う人はきっと幸せなのだろう、と客観的に思った。でもそれは、私じゃない。

優しくしてくれて嬉しかったけど、同じだけの気持ちを返せなくて、いつも辛かった。それと同時に、人を好きになる、なんて理解できない感情が少し恐ろしくて、少し嫌悪した。嫌悪してしまうのが申し訳無かった。でも、嘘ばかりの私にとって、その嫌悪は本物で。


「ほら、見てくださいよこれ。エッセイですって、恋愛の」
「Aこういうの好きなわけ?」
「んー……、『普通』を知りたくて?ほら、私は勤勉なので」


最近追っているエッセイを、大田さんに見せてみる。これを書いている人は、現在付き合っていた彼と結婚した事を機に、今までの、そして今の思いを綴っているらしい。


「この人、全然男運無かったんですって。でも今の夫と居ると、『世界がきらきら光っている』『全ての物が美しく見える』らしいですよ?」
「『ほんの少し会えないだけで、寂しくて泣いてしまう』とも書いてあんな」


そう言った後、顔を見合わせて笑った。こんな思い、私達にはきっと一生無縁だ。知らない、そんな感情。

別に、人が嫌いな訳じゃない。
友愛はあった。家族愛はあった。
恋愛だけが、存在しなかった。


「俺ら、似てんな」


大分酔いが回ったのか、薄ら赤い顔で大田さんは言った。

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作者名:梅干し茶漬け | 作成日時:2021年8月11日 20時

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