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「まあ_____向いてなさそうよね」

僕と目を合わせないままAさんがつぶやく。単なる感想なのか、それとも煽られているのか。どちらにせよ図星の僕は少し顔を顰めた。一方彼女は素知らぬ顔だ。重く受け取りすぎなのかもしれない。

彼女はするりと手を伸ばし、グラスに飾られていた薔薇の花を僕のグラスに移した。つい、と深紅のネイルを施した指先がグラスの脚をなぞり、彼女は顔を上げた。その指先よりも彼女の顔に視線を飛ばしていた僕は、彼女と目が合って思わず固まった。

「…何みてるのよ」
「いや、別に」

唇を尖らす彼女に、思わず顔を逸らした。随分と愛想のない返し方をしてしまったが、実際はいつもと雰囲気の違う彼女に見蕩れていただけだ。

「じゃあね」

僕の返答に納得したのか、くい、とグラスを空にして、Aさんは踵を返した。誰かの元へ行ってしまうのだろうか。ゆらゆらと揺れる黒髪は、後ろ髪を引きそうなほどに艶めいていた。もう少し話してもよかったのに。

ぱちり。彼女がふいに振り返り、後ろ姿を見つめていた僕と目が合った。

『ねえ、待って』

そう薄く開いた唇が言葉を紡ぐ前に、彼女は左の口角を上げて妖艶に微笑んだ。

それからのことはよく覚えていない。気づいた時には既に夜明けで、僕は自宅のベッドに寝転んでいた。

確かなのは、彼女のグラスの薔薇の花弁が僕の家にまだあること。そして、僕の心が彼女に傾き始めたことだった。

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タイトルはオペラ『カルメン』第2幕『花の歌』から。

オペラ『カルメン』をモチーフにオリジナルで作成しました。なのでこのお話の河村さんには恋人が
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招福のミモザ/fkr→←La fleur que vous m'aviez donné / kwmr



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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時

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