チューリップを携えて/kwmr ページ12
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「Aさん、明日僕に少しだけ時間をくれませんか」
仕事が終わったら、声掛けてください。業務連絡と同じトーンで言われたものだから、咄嗟にはなんのことか気づかなかった。
数瞬してからその意図に気づいて、無意識に拳を握りしめる。1か月前の、あの告白のことだと気づいた途端に胸がきゅうと苦しくなった。いてもたってもいられない。初恋みたいに初心な反応をしてしまうくらい、私は動揺していた。
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「河村さんが、すきです」
思わず口をついて出た言葉だった。言わなきゃいけない、そう思った。
私が笑いかけると、彼は決まって少しだけ辛そうに笑う。それがいつももどかしくて、私のせいなのかななんて思ってしまう。
それなのに、優しく接してくれる彼に、どんどん惹かれていくばかりだった。
「…きっと、素敵な人がいるんでしょう」
あなたみたいに明るくて、素敵な人には、きっと。眉を下げて、薄く微笑んだ河村さんはそう言った。
衝撃だった。私は彼のことが好きなのに。そんな、悲しい顔するだなんて、思わなくて。笑って否定すればよかったはずなのに、あまりにも彼が儚げに微笑むものだから、咄嗟に口にしていた。
「河村さんが、すきです」
他の人じゃなくて、あなたが。ぱちくりと目を見開いて、ぽかんと口を開けて、彼は目を閉じた。どうすればいいか分からず、お互い無言で駅まで歩いた。あんなに気まずい夜はなかった。
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時