クロスステッチで描く夢

パラレル・パラドックス/kwmr ページ8

「河村さんって」
「はい？」

キーボードを打つ手を止めて彼の方を向けば、彼も手を止めて視線をこちらに向けてくれた。ああ、今日も顔が綺麗。

「掴みどころがないですよね」

そう、彼は掴みどころがない。QuizKnockに入った時は真面目でしっかりとした人以外のイメージがなかったが、冗談だって言うし不思議な企画を考えてくる人だった。決してふわふわしているわけじゃないのに、なぜだか掴みどころがないのが河村拓哉なのだ。

「僕ほどはっきりしてる人はいないと思うけど」
「どの口が言うんですか」

軽口は叩けても目を見て話せない。なんだか彼の瞳に吸い込まれてしまいそうになるから。あの顔をずっとは見ていられない。

Aからはそう見えてるならそうなのかもしれないね、なんてケラケラ笑う河村さんは、やっぱり掴みどころがない。

初めて会った時はQuizKnockの人の中で1番話しかけにくかったのに、今はこうして話せるようになっただけ進歩じゃない？

「でも、私、河村さんのユーモアのある発言が好きです」

何が『でも』なのか分からないけど、彼のそういう所か好きなのは本当だ。ふいに言ったことがかっこいいのは、彼にとってはよくあることだと思う。

「それは告白？悪いけど応えられないよ？」

一気に顔が赤くなるのが自分でもわかった。そんなつもりで言ったんじゃないのに。曲げた人差し指を口にあてて、くつくつとさも楽しそうに河村さんが笑う。

「単純に褒めてるんです！」

はいはい、Aはいじりがいがあるなあ、と彼はパソコンに向き直って仕事の続きを始めてしまった。私も悪態をつきながら姿勢を正す。

河村さんは魅力的。落ち着いているけれど軽やかで、ふわふわしてても芯がある。とっても不思議な人だけど、でもでもやっぱり、彼との時間は何にも変え難いのだ。


スケルツォ 第1番ロ短調 op.20/ショパン

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