最低限の目的は達成ってことで。 ページ31
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「…やだ、もう。なんでだろ…泣きたいわけじゃないのに…変だよね」
胸の中のAは、ぽろぽろと涙を零して笑ってる。
くしゃくしゃの顔は、さっき雨の中で泣いていた時の表情とは全然違ってたけど、やっぱどうしようもないほど愛おしくて。
これで何度目？というくらい、またきつく抱き締めた。
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オレと同じ未来が欲しい――――――
聴きたかったAの本音。
何度抱き締めても足んねーよ。
Aじゃなきゃ意味がない。
大事にしたい。
もっと欲しい、もっとオレのものにしてしまいたい。
沸きあがる感情は、もう“好き”と言う言葉ひとつでは到底表現できなくて。
もう余計なこと考えて頑張んなくていい。
オレには欲しいもん欲しいと言ってよ。
濡れた睫毛にそっと口付けた。
宥めるように唇にも軽く触れると、少し落ち着いたのか、Aは擽ったそうに小さく笑って目を閉じる。
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ホントはこーいう話をもっと早くしとくべきだったんだよね。
オレばっか先走ってカッコ悪いとか、それっぽいことをちらつかせたらわかるでしょとか、そーいう問題じゃなかった。
自分のことにはバカみたいに鈍いから、きちんと言葉にしなきゃ伝わんない。
最初の『一生ローンの分割払い』ってワードだって、全くピンと来てないんだから。
…ま、あれはあのタイミングで言う話じゃなかったなと反省もしたけど。
とにかく今の時点で言えることだけ。
正式な言葉も具体的な約束もまだ何もできなくったって、オレはそのつもりでいるよってことを、これでもかと言わせてもらった。
ずるいよね。
何の保証もできない今のオレには、これが限界。
とりあえず言いたいことが伝わったんなら、ひとまず最低限の目的は達成ってことで。
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ふと…
まだ付き合う前。
イケメン君に怖い思いをさせられて寒空をコートも着ずに逃げて来たAを、移動車の中で抱き締めた時のことを思い出す。
ぽろぽろと泣き出したAをそっと胸に抱き締めて…
それだけで、オレの心もぎゅーっと締め付けられるような…。
あの時はその先を自制できる自信がなくて顔も覗き込めなかったけれど、今は違う。
しっかり見つめ合って、こーして唇に触れることだってできる。
今も変わらない華奢な身体に細い肩。
ふんわり感じるいい匂い。
あの時と同じ胸にすっぽり収まったAは、小さくてもオレにとっては大きな存在で。
Aを守りたいと、改めて思う。
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作者名：kico
| 作成日時：2019年5月30日 12時
