手 ページ11
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胸を抉られるような痛み。
だけど、私の個人的な事情に和也を縛り付けることはできない。
マネージャーさんと約束した。
『その時は、2人で考えた上で手を離します』って。
だから、和也にちゃんと話をしなければ。
その上で、2人の結論として手を離してもらうしかないんだ…。
あの時は、まさかこんなに早くその時が来るなんて思わなかった。
想像するだけで、涙が込み上げて視界が歪む。
泣くな、A。
ここで泣いちゃだめ。
「……」
和也の左手が、唇を噛んで黙り込む私の右手にゆっくりと重なって。
下から掬い上げるように私の手を取った。
「Aは…この手を…どうすんの…？」
「…う」
愛しい人の声にまた涙が込み上げてくる。
静かに問う和也の瞳は、僅かに揺れているように見えるのに、奥から強い光を放っていて。
「Aが思ってる通りに言っていいから」
「……」
「Aが考えてること迷ってること、全部教えて。じゃなきゃ、話が進まないよ？」
「……」
「大丈夫だから。アナタが悩んでることそのまんま言ってごらんよ」
「そのまま…？」
「そ。これからどーするつもり？」
真っすぐな視線は、オレを信じて全部正直に言ってみなさいよと私を促していて。
「もう…この手は…」
「ん…」
まるで手を引かれるような感覚で、私の口から言葉が引き出されていく…。
「この手は和也に…離してもらうべきなんじゃないのかな…って…」
「……」
ほんの一瞬…左手に力が入り、わずかに眉を顰めたように見えただけで、和也は目を合わせたまま表情を変えなかった。
「…そう思ってたの」
「……」
「でもね…そうしなきゃってわかってるのに、私は迷ってばかりで言えなくて…。ごめんなさい、もう…どうしていいのか…わからなくて…」
迷いながら胸の内をそのまま吐露してしまった…
自分で情けなくなってしまい、口を噤む。
私はずるい。
一番大事なことを中途半端なまま和也に伝えて、自分で決めずに逃げている。
だけど、これ以上の言葉が出てこないよ…。
「…なるほどね」
黙り込んだ私に、くはっと和也が笑った。
「んじゃ訊きますけど…なんで？どーしてそう思ったの？」
「だって…いろいろ考えたけど…。
まず、ほとんど会えなくなる私に、和也をこの先ずっと縛り付けてしまうなんてできないから…」
「縛り付ける？んなこと気にしてんの？」
和也が事も無げに言う。
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作者名：kico
| 作成日時：2019年5月30日 12時
