平穏とはほど遠いわたしの世界 (ページ5)

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　次の日、わたしは学校に来ていた。

　昨日は閉店一時間前になってお客さんがわんさか来店して、帰ったのは1時過ぎ。ちょっと寝不足である。

「今日も眠そうだね、千菜。夜中になにやってんのよ～」

　ダルそうやわたしを見て、友達はケラケラと笑った。

「ネット見てただけです～」

　学校の友達にはバイトをしていることを言っていない。

　夜も遅い仕事だし、先生たちに話がいってしまうとまずいから。

「は～、太陽が眩しい。ちょっとわたし一眠りするから、授業始まる前に起こし──」
「きゃあああ！山田くーん！」

　わたしの声は黄色い声援にかき消された。

「あ、山田くんだ！相変わらず綺麗な顔してる」
「んね、超かっこいい……」

　近くの椅子におのおの腰を下ろしていた友達たちが、色目きたった様子で窓から顔を出していた。

　校舎の下を見ると、そこには数人の男子生徒たちがバスケをして遊んでいる。

　その中に、ひときわ目立つ少年がいた。

「あんだけかっこいいのに彼女いないなんて……あたし立候補しようかな」
「え、まじ？」
「でも、一度でいいから付き合ってみたいじゃない～」

　わたしもつられて窓の外から見える山田二郎を見下ろす。

　楽しそうに友人たちとバスケする姿は、とても絵になっている。

　……背は大きくなったけど、どうしても可愛い弟みたいに見える。

　とはいえ、彼はわたしにそう思われることを、もう望んでいないはずだ。

「よっしゃー！二郎ナイス！」

　シュートを決めた彼に、友人たちがわらわらと集まっていた。

「きゃー！二郎くん、こっち向いて～！」

　そろそろ窓を顔を出すのはやめようと思っていれば、隣にいた友達の一人がそう声をあげた。

「ちょっ……」

　わたしは思わず止めようとするが、時すでに遅し。

　下を見ると、二郎はこちらを見上げていた。

「──！」

　そのオッドアイと視線が合った気がして、心臓が小さく跳ねる。

　いや、大丈夫。この距離じゃわたしの顔だってわからない。何年も経っているし、気づくわけない。

　わたしは自分の机に戻る。
　彼に、二郎にわたしの存在を気づかれてはいけない。

「あれ、二郎くん。ずっとこっち見てない？」
「いやーん、それにしてもいい顔してる～」

　そんな友達の会話を聞き流し、わたしは机にもう一度突っ伏した。

　──わたしの存在は、気づかないほうがいい。

　きっと二郎は、わたしを嫌っているから。