ヨコハマ・ディビジョン ページ3
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暦がH歴に変わって早数年。
日本は劇的に変化したような、そうでないような、まあ、ラップのできないわたしにとっては些細なことかもしれない。
多くの名所は撤廃されたけれど、中王区とそれ以外という区別ではあまりにも不便なので、市民は普通に今までの名前で場所を示している。
「おはようございます。マスター」
わたしのバイト先であるダーツバーは、横浜駅から30分ほど歩いた先のみなとみらい周辺。電車賃を節約して横浜駅から歩いている。
高層ビルが立ち並んだ中にある、高級ホテルのフロアの一角にある店内で、わたしはバイトをしていた。
「千菜ちゃん、おはよう。今日もよろしくね〜」
ほんわりと笑った中年の男性が、このダーツバーのマスターである。
けれど、それだけではない。
時間があれば横浜のこの店でマスターとして立っているが、その他にも池袋、新宿、渋谷、中目黒や銀座といった場所に系列店を構える経営者でもあった。
マスターともかれこれ数年の付き合いになる。この人には多くの恩があって、本当に感謝していた。
開店時間となり、看板を「OPEN」にひっくり返す。
お客さんが来店するのは、だいたい8時過ぎころから。日によってばらつきはあるけれど、大抵それくらいだ。
────チリンチリン。
バーカウンターでグラスを磨いていれば、扉が開いて取り付けられていた鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ。こんばんは」
「ああ」
「どうも、こんばんは」
「……」
入って来たのは、三人組の男性客だった。
「奥の席、空いていますよね?」
「はい、どうぞ。お飲み物は──」
愛想の良い眼鏡の男性に軽く会釈をし、口頭で注文を聞いたわたしは、さっそくお酒を作り始める。
「……」
それにしても、今日は大物が来たなぁ。
カランカランと氷の音を耳にしながら、わたしはぼんやりと考える。
今来店して来た男性客3人……果たしてこの近辺で彼らを知らない人なんているのだろうか。
わたしはさり気なく、薄暗い空間の中にいる3人へと視線を向けた。
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作者名:夏 | 作成日時:2020年2月14日 20時