Kleinod Ⅴ (ページ6)

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「俺」は、元々はただの「副作用」に過ぎなかった。
それが語り掛けていく内に、どんどんと「俺」に自我が芽生え、「人格」として形成された。
俺は「俺」であり、「俺」は俺である。
言葉に形容するならば、「多重人格」と原理は似ているのだろう。

「俺」には彼の全てが共有される。感情も記憶も何もかも。
だからこそ、「俺」は的確に彼の弱い部分を突いてくる。
何度も何度も、いくら自分が必死に無視しようと、聞かないようにしようとしても、俺が触れてほしくない事や自分の弱さを突いていく。

そんな事を続けられて、耐えられる訳がなかった。
もし何もない普通の青年だったら、数日もせずに精神崩壊を起こしているだろう。
それでも、今の今まで耐えているのは、「グループSは裏切らない」という事を言い聞かせているからで。

アサシン時代に、1人で活動しているのがどこか苦しかった。
だから、チームが出来て、メンバーと一緒に戦ったり冗談を言い合ったり出来るようになって、本当に本当に嬉しくて。
「グループSの信頼心」は人一倍あった方だと思う。
「メンバーへの信頼」が、1番の拠り所だった。
その「拠り所」が、目の前で崩れたのだ。

乗ってもいない賭けに勝ったと、「俺」は囁く。
つけっぱなしにしていた無線から、「松村が本部で暴れている」という連絡にあれは《行かなくていいのか？大事なメンバーなんだろ？》と問う。
自分が行っても、松村は止められない。
…それに、今の自分が行った所で、松村は果たして話を聞いてくれるのか？
そんな事をぐるぐると考えていると、呆れたように「俺」が声をあげた。