Kleinod Ⅴ (ページ33)

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46:abhangigen ページ33

「…ねぇ、ジェシー。僕はさ、高地優吾じゃないよ」
もう何度も繰り返されたように、「彼」はその言葉を繰り返す。
口に巻かれたタオルを取った矢先、「彼」はこちらを見もせずにそう呟く。
ジェシー「…こーちはこーちだよ…」
「駄目だね、こう言っても、堂々巡りになるだけだ」

手錠を外しても何も言ってくれない高地に、ジェシーは無理矢理視線を合わせに行く。
ジェシー「こーち、俺は、こーちに戻ってきてほしいよ」
「無理だよ」
ジェシー「無理じゃない」
「出来ないよ。「高地優吾」はメンバー全員の事騙したっていうのに」
ジェシー「そうだけど、でも！」

松村「…こーち、」
いつの間にやら辿り着いていた松村が、こちらを見てふらふらと歩いてきた。
変装しているというのに、何で松村は「彼」が高地だとわかったのだろう？
「違うよ、人違いだよ」
松村「ねぇこーち、こーちは、俺の事、見棄てないよね」
「彼」の否定の声も聴かず、松村は譫言のように言葉を続ける。

松村「こーちは、俺の事置いていかないよね、俺の事裏切らないよね、」
「……」
松村「言って、いってよ、こーち、いつもみたいに、裏切らないよ、って、言って、いってってば…」
まるで先刻「高地が自分たちに嘘をついていた」という記憶をなかった事にするかのように、いや、なかった事にしたいからか、松村は黙ったままの「彼」に訴えかける。

松村「ねぇ、ねえってば、言って、早く、はやく俺に、「置いていかないよ」って、「嘘はつかないよ」って、…ねぇ、…言ってよ…」
彼の言葉が段々としぼんでいく。
最早依存症患者のような松村の姿を、高地はただじっと俯瞰しているだけだった。