Kleinod Ⅴ (ページ29)

今日:1 hit、昨日:23 hit、合計:171,890 hit

＊ページ29

森本「…ふざけんな」
はねのけられた掌を、あいつはじっと見ていた。
《…何で》
森本「お前は樹じゃない」
《じゃああの偽物は？》
森本「本物だよ」

到底理解出来ない、そんな目であいつは自分の事を見る。
森本「エイルさんも、高地も、俺にとっちゃ本物だよ」
《でもあいつはお前たちの事騙してたじゃねえか》
森本「別にいい」
《は？》

森本「エイルさんになら、グループSのメンバーになら、騙されてもいい」
あいつの顔が何となく理解したように歪む。
きっと京本みたいに、夢に逃げれたらそれはそれで良かったのかもしれない。
でも生憎、自分は煙の幻想には眩んでくれないから。

森本「エイルさんは俺の事育ててくれた、高地は俺と一緒に戦ってくれた、それは俺が今までこの目で、この体で、経験した事だよ。それは偽物なんかじゃない…」
幻想や嘘に眩めないのなら、自分が見た物を全て真実にすればいい。
自分は、風邪を引いた時に優しく付き添ってくれたエイル博士の手の温もりも、落ち込んだ時に励ましてくれた高地の手の温もりも、全部全部覚えている。
それは、本物だった。何一つ違わない真実だった。

だけど、今目の前にいるあいつは、違う。
今まで自分がずっと一緒にいた、田中じゃない。
田中が何よりも嫌っていた、「あれ」だから。一緒なんかじゃない。
そりゃ、エイル博士は確かに「偽物」と言えるものだっただろう。
それでも、彼にとってエイル博士も、高地も「本物」であった。
森本は折れそうになった心を立たせ、目の前の「偽物」に殴りかかった。

森本「俺にとっての「偽物」は、お前だけだよ。樹から離れろ！」

青年になら、メンバーになら、騙されたって裏切られたって、構わない。