Kleinod Ⅴ (ページ24)

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《おいおい、そんな怖い顔すんなよ。ほら、俺が泣いちゃうぞ？》
森本「お前が今すぐ樹を返してくれたら済む話なんだけど？」
《ちょっとくらいいいじゃねえかよ。俺だって、お前らと一緒に生きたいんだぜ？》
京本「は？」
その瞳が少し切なげに向けられる。京本はその目線を外せず、「あれ」をじっと見た。

《だって、いつも俺とお前ら、楽しそうにしてさ、俺だってそりゃ羨ましいなぁとか思う訳》
いや、惑わされてはいけない。こんなの、自分たちを嵌める為の思ってもいない台詞だって。
《俺が嫌われて、「俺」を好いてくれたらなぁとか思って色々やってもさ、お前ら嫌うどころかいっつも俺の方を守ろうとするし》
そもそも、こいつだって「副作用」じゃないか。
高地の「扇動」と変わらない、これも自分たちを騙す為の「嘘」だって、
京本(…嘘なら、すぐ気付くのに、)

森本「当たり前だろ」
凛とした森本の声がする。
森本「お前は樹じゃない。樹を苦しめてる、ただの「副作用」のくせに、」
《…はは、何それ、傷付くなぁ…？「俺」は俺だよ、慎太郎》
森本「樹じゃないくせに樹の声で俺の名前呼ばないで！」
《そんなカリカリすんなって。糖分足りてねぇんじゃねえか？》
おどけたように言ってみせる彼の顔が、少し歪む。
…何だか、それが田中と重なって見えてしまう。

《…はは、お前らみんな、俺も含めて、疲れてんじゃねぇの？》
くるり、と踵を返し、「あれ」はバーの中に見つけた作りかけのチェリーパイを、良いものを見つけたかのように手に取った。