胡蝶の夢-2- (ページ10)

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『…あれ、あくびしちゃった？』

きっと気づいている

あくびで出た涙なんかじゃないってこと

「ちょっと眠くなっちゃって」

『へへ、可愛い、バイク乗ってるとき寝ちゃだめだからね？』

「わかってる」

『ちゃんと俺に掴まってなきゃだめだよ』

ヘルメットも手袋も全部お世話してくれた

誰にも顔を見られたくなくて、誰にも見つけてほしくなくて
必要以上に森本くんに抱きついて顔を隠す

信号で止まるたびに私を確認してくれる森本くん

走っている最中もミラー越しに見える森本くんがカッコ良くて

本当にこのままどこか遠い場所まで連れて行ってくれればいいのにって
そんなことを思ってしまっていた

「…どこ？ここ」

『ん？秘密』

「なんでよ」

『Aのお望み通りの知らない場所に連れてきたからね』

“ちょっと寒いかも”

ただでさえ薄着な森本くんが羽織らせてくれた薄手のパーカー

だけど、彼の温もりで芯からあったまっていく気がしていた

目の前に広がるのは真っ暗闇の海

辺りには何もなくて、聞こえてくるのは小さな波の音だけ

「…ここにいたら、ずっとふたり」

『そうだね、ずっと俺とAしかいない』

「…ずっとこれがいい」

今おそらく家で私を待っているであろうあの人のことが頭に浮かぶ

きっと…きっと、戻ればまたひとりになってしまう

『駆け落ちもアリかもね』

悪戯に笑う森本くんはやっぱりすべてを感じ取っていて

その優しさに甘えるようにそっと彼の肩にもたれかかった

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