胡蝶の夢-2- (ページ29)

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「ねえ森本くん」

『…ん？』

「大好きだよ」

『うん、俺も大好き…いや、うん、』

「えぇ？なに？」

恥ずかしくなったのか、視線が泳ぎ始めた

目を合わせようとしても顔を背けられるから
追いかけていたら一瞬、体勢が崩れて森本くんを押し倒してしまった

『Aちゃんのえっちー』

「ねえ何言おうとしたの？」

『…いいよ別に気にしないで』

「やだ、気になる」

『…耳塞がせて』

両耳を掌で塞がれて森本くんが何かを口にした

音を封じられた耳からかすかに聞こえてきた声と森本くんの口の動きが一致した

「…聞こえない」

『もう言ったからこれでおしまいでーす』

きっと森本くんは恥ずかしがるから聞こえていないフリをした

…自分が生涯で伝えてもらえると思っていなかったその5文字は

言葉のもつ意味以上に重く、深く、私の胸に刺さる

そして、精一杯強がるとするならば、

森本くんがその言葉をくれただけでもう十分

自分の想いと自分が置かれている状況

それに抗うことのできない私は気持ちに蓋をすることしかできない

『…へへ、Aびしょ濡れ』

「森本くんも」

雨雲が消えた夜空の下、

ふたり寄り添ってお互いを温めあった

このまま、夜明けが来ないでほしいと心から願っていた

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