胡蝶の夢-2- (ページ20)

今日:43 hit、昨日:110 hit、合計:51,841 hit

70 ページ20

・

「…有難う」

『ん、…風邪、引いてたん？』

横目に見た田中くんの表情も声色もいつもより落ち着いていて

視線が交わることはない

彼も彼なりに何か思うことがあって気を遣ってくれているのかもしれない

そんなことをボーっと考える

「…まあ、色々。田中くんに話すまでもない話かな」

半分本心、半分からかい

いつもみたいなしつこさを見せる田中くんを求める、

だけど

『俺にはまあ…言わなくていいけどさ、慎太郎には言ってやってよ。
あいつ、なんか、…まあ、やばかったから』

「…偵察のために来た？」

『それもあるけど、まあ普通にAちゃんも心配だから』

顔をあげた田中くんの視線の先にいるのは友人と戯れている森本くん

いつもみたいに笑っているように見えるけど、
いつもとは違うなって私もわかるようになってきた

あの夜からの今、だから心配させてしまったのかな

森本くんに心配掛けたくなくて選んだ行動だったのに、と少しだけ嫌になる

それと同時に

「…思っていたよりもずっと簡単だった」

『へ？』

「…ううん、田中くんは森本くんの友達だったね」

『うん？そうだけどどういう？』

「優しくしてくれて有難う」

あの夜の決心に、そっと背中を押された気がした

・