◇6 ページ42
◆SIDE-YOU◆
近くの壁に背中を預け寄り掛かりながら、ふぅ…と溜息をつき、銀縁の眼鏡をクイッと上げて、少し顎を上げながら横目で私を見ている。
「お前さぁ…
俺、前から言ってたよな…？
さっきも言ったけどさぁ…
お前の脳みそは飾りなのか？
少し歩いたら忘れるのか？
そうだとしたら動物並みだな」
はぁ…、と溜息をつき、翔くんは俯く。心なしか顔色が悪いし、左手を横腹に当てたままだ。
………え………もしかして………。
翔くんの正面に回り込むと、左手を当てている横腹から血が滲んでいる。
どう考えても、私がさっき庇われた時に翔くんに刺さってしまったんだろう…。
『やだっ！翔くん！
ごめんなさい！私のせいで…』
「いや…、
気ぃ抜いた俺が悪いんだ…」
『ちょっと待ってて！
すぐ、何とかするから…』
チカラを使って治そうと、翔くんの患部に手を当てる…が、その手を取られ握られる。
不思議に思い見上げると、翔は私を見下ろしたまま、右手の親指で自分の唇をなぞっている。
思案している時のクセだ。
施設のオトナ達も、翔くんのこの仕草、色っぽくて素敵ってキャアキャア言ってたっけ…。
＜………おい、お前ら。
悪ぃけど、前に言ったアレ。
ちょっと試させてもらうわ…＞
智くんも和也も雅紀くんも潤も、
「マジかよ！」とか「ダメだよ！」とか少し焦ってる感じでギャアギャアと頭に話しかけてくる。
一体、何だろう…。
『翔くん、前に言ったアレってな…』
そこからは。
まるでスローモーションのようだった。
後頭部に翔くんの右手が伸びてきて、左手は腰に回され、ぐっと引き寄せられる。
翔くんの顔がゆっくりと近づいてきて、くりくりの瞳を少し細めながら私と目を合わせたまま、唇に柔らかな感触。
すぐに離れて、固まった私の様子を見た翔くんは、また唇を重ねる。
啄ばむように、何度か唇を吸われ、ちゅ、という音と共に唇が離れたかと思うと、唇をぺろっと舐められる。
「………目、瞑れば…？」
その優しい声色と今まで感じた事の無い色気に、ひゅっと息を吸うと、強く重ねられる唇。
何度も唇をちゅっ、ちゅっと吸われ、唇を舐められ、翔くんに翻弄される。
ドキドキが増して、息が苦しい…。
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