「好きだよ」 (ページ11)

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61話　side-ab ページ11

目的地は父方の祖父母の家だ。
第4週の土曜日は母が家に帰ってくるから、私は朝早くから祖父母の家にお邪魔するんだ。

手を洗ってリビングに入ると、おじいちゃんが椅子に座って待っていた。
『よく来たな亮平。さあはやく食べよう』

朝ごはんを食べ終わったあと私はかばんの中から勉強道具を取り出した。
おばあちゃんは洗濯物を干しにベランダに、おじいちゃんは自分の部屋に戻っていった。
「まずは、物理か」
スマホで今日勉強する教科を確認して、物理の教科書と問題集、ノートを広げた。

問題集を見ながら答えをノートに書いていく。
わからないところがあったら教科書を見る。
間違えた問題は、問題集に印をつけて解き直しをするときにわかりやすいようにする。

勉強は好きだ。
やっておいて損はないし、知識として頭に入っていくのが楽しい。
何より佐久間に褒められるのが1番嬉しい。
もはや佐久間に褒められるために勉強してるといっても過言ではない。
佐久間は思ったことをすぐに口に出すタイプで、
「すごい」と思ったら「あべちゃんすごい！」って言ってくれる。
…言ってしまえば、私は佐久間のことが大好きなんだ。

勉強って自発的にやるから楽しいんだと思う。
…誰かに強要されてやる勉強は楽しくなんてないし面白くない。

『亮平は賢くていい子だから100点なんて簡単よね』

嫌なことを思い出した。
笑顔でそう言った母親。
でもその笑顔は反論を許さないといった圧もあって。
私は反抗したい気持ちを抑えて頷いたと記憶している。

母のその言葉は未だに忘れることができず頭から離れない。
言った側にとっては些細な一言だったのかも知れないけど、言われた側にとっては些細な一言なんかじゃない。
一生付きまとってくるかもしれない、重い一言なんだ。

母は今頃、私のいないあの家でお父さんと弟と過ごしているのだろうか。
…私は母の『失敗作』なんだから。
…いなくても大して変わらないのだから。
そう考えると、胸に何かつっかえたみたいに不快感が広がっていって。
気持ち悪い。
水でも飲もうと立ち上がろうとしたとき、目の前に水の入ったコップが置かれた。

「…ありがとう、おばあちゃん」
『いいのよ。
それよりお腹空いたでしょ？お昼ごはん、今から作るから待っててね』
時計を見ればもう11時。
『お昼ごはん食べ終わったら一緒に買い物行こうね』
おばあちゃんは笑顔でそう言った。