もう恋心なんて忘れた (ページ4)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:31,277 hit

F ページ4

俺はずっと昔に一目惚れをした。その人物の顔は脳から離れることなく鮮明に覚えている。それは今目の前で顔を手で覆っている北山だった。

自分よりも年上なのに顔はとても幼く、けれど耳には穴が２つ３つ開いていてそこにはチャラチャラと音を鳴らすピアスが付けられていた。それもまたギャップ萌である。

前髪は半分あげていて、少しオレンジ気味の茶髪はとても眩しく見えた。初めて会ったときは小学五年生の時だったが、その子供らしい要素は今でも残っている。

そんな愛らしくて堪らない彼にあんな事を言ってしまったのにまだ北山の事を好いていると分かるとそんな自分が許せなくて、怒りで暴れてしまいそうだ。

今目の前で痛みを痛感している彼になんて言えばいいのだろうか。俺の病気が発覚してからは病状はだいぶ治まったが、決して治ったわけではない。

「久しぶり」だろうか。それとも「ごめんね」と謝罪の言葉をかけた方が良いのだろうか。やはり一回色んな意味で謝った方が良いと思い、その言葉を口にした。

「邪魔」

思い浮かべていた言葉とはかけ離れていて自分でも吃驚する。なぜ北山の前だとこの病気は悪化してしまうのだろうか。

北山があの時のように傷ついた顔を見たくなかったので、俺は素早く彼の横を通り過ぎた。渉は後から慌ててついてきて、病気を知っていたとしてもあんな事を言った自分を睨んでいた。

それもそうだろう。渉にとって北山は大切な息子みたいな存在だから。そう思える渉が羨ましいと思ってしまう自分がまた嫌になる。

その日から俺は北山に振り回されていた。廊下ですれ違えば胸は高鳴って足が保たなくなる。北山が自分のいる教室に来ては、ガン見してしまい目が合うと心臓が痛い。

授業中は窓辺の席を利用して体育の授業をしている北山を盗み見る。それで何度教師に怒られたか分からないほどに膨れ上がっていた。

その事で渉に何度も注意されたり、心配されたりと迷惑もかけてしまった。申し訳なく思うが、この恋は抑えきれないほどこじらせてしまっている。

北山が再び自分のことを好きになってくれる訳無いと思うが、北山を想うのは許してほしい。俺は誰に言っているか分からない願いを静かに告げる。

放課後になって自分が所属しているバスケ部の練習場の体育館に向かう。そこにはもう人がちらついていて、床と靴が擦れる音が鳴り響く。

何故サッカー部に入らなかったのかと今更後悔する。こんなデカくて固く持ちにくいボールより、足で遊ばせられるぐらいの大きさのボールを使いたい。

そして楽しそうに部活動に取り組む北山を眺めるんだ。