もう恋心なんて忘れた (ページ30)

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俺だっていつも症状を必死に抑えて、彼を傷付かないようにするために避けるなんてそんな良い子じゃいられない。

ほかから見たら、俺は北山の可愛さに溺れたただ欲に身を委ねる馬鹿な男どもの一人にしか見えないだろう。それでも良いと思った。一緒に彼と欲に堕ちれるならその運命も受け入れられると思ったんだ。

北山の戸惑っている頬に手を添えた。彼は少し肩を揺らしたがそれを振り解く事無く、逆に頬を手の内に擦り寄せた。

その行動に意味するものとは何だろう。

たまに世の中で、言葉にしなくても雰囲気で通じ合えると言われる関係がある。俺はそんな関係は、存在しないと思っている。

それは当たり前のことだ。誰だってエスパーになれるわけではない。結局言葉で表してくれなきゃ、誰だってその心の内は分からないのだ。

「俺は、それをどお受け取ればいい？」

素直のまま聞いてみる。これが正解なのだ。そう言葉に表すと、瞳を大きく泳がせて目を逸らされた。

「それは……」

「俺は……おまえのこと……」

また視線が絡みつく、そこには糸が引かれているように逸らすという選択肢は無いようだった。自然と上目遣いになる彼の目の中には、俺が映っていて虚しい表情を浮かべている自分自身がいた。

ゆっくりと彼の瞼が閉じる。二重がくっきりと浮かび上がり、そのまま永遠の眠りについてしまうお姫様のように綺麗な顔だった。また頬を擦り寄せる。

更にそこに彼のまだ幼さが残る手が覆い被さる。「離さないで」と言っているようで、勘違いに駆られた俺は胸が大きく飛び跳ねた。

『期待』という文字が頭の中でぐるぐるしている。視界は彼の可愛らしい瞳といやらしい唇しか映らなくなった。キス待ちしている中学生男子のように興奮してしまっている自分が恥ずかしい。

考えを巡らせてる間、彼からの応えは返ってくることは無かった。それもそうだ。俺は男、そして彼も男だ。この境界線を越えるのはなかなか難しい。

逆の立場で考えると俺も押し黙るだろう。だから彼を待つ事しか出来ないのだ。それを意に込めて目線の先にいる彼を見つめ続けた。

「……俺、は。……お前のこと、……っ、」

「何やってんのーーー！！」

とても甘い雰囲気を漂わせていたはずなのにいきなり入ってきた大声でガラスを割られたような感覚がした。声がした方向に顔を向けると何やら懐かしい顔の持ち主がいた。

そいつの名前までは思い出せないけど何やら胸騒ぎが止まらない。その男は、ズカズカと此方に近づき俺を睨んだかと思えば愛しい北山を連れ去ってしまった。